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『高架下、スピリチュアル・ヒール・ボランティア』

※この話は、私のパートナーのもの。


早朝の朝露に濡れたグラウンドと、怖い顔のコーチ、それにすでに集まり切っているであろう仲間を思う。

トーストをかじりながら、ポケモンを見てしまったのが良くなかった!

毎週末通るのが嫌になる道を今はひたすら走っている。道具のぎっしり入ったかばんは自分よりも2周りは大きいし、電線では鳩がのんきそうに鳴いている。平日には気にしないのに、週末は自分の体の小ささにも、この鳩の間抜けな鳴き声にも腹が立つ。

道のわきに生えた草を蹴り飛ばしながら走っていると、

「ああああ!ちょっと、ちょっと、そこの坊や!」

あたりを見ると、変質者が湧き出ると有名な高架下の差し掛かっていた。
声の主はそこにいた。今思えば40か50そこらのおばさんだっただろうか。茶色の水玉の柄のついたベレー帽をかぶって、赤いチュニックのような服を着ていた気がする。別に寒くもない気温なのに手袋をして、茶色の、平成を感じさせるブーツを履いていた。

いかにも、である。

「今、痛いところはどこかないかい?え?」

先ほどまで思っていたコーチの鬼瓦みたいな顔はかすみ、かばんの重さも鳩の声も意識からはじき出されていた。
高架下の深部みたいに真っ黒なおばさんの目しか見えていない。

「痛いところ、なぁい?」

「…しいて言うなら、膝が痛い気がする。」

そう!とおばさんは嬉しそうな顔をすると、赤いチュニックを翻し、大事そうに手袋をはずす。現れたのは年相応の手であったが、ほかに比べてやけに白さが目立っていた。
おもむろにおばさんはかがみこんで、僕の膝に触れるか触れないかの距離で手をかざす。何だかじわりと膝にぬくもりが広がるのを感じた。

どれくらいそうしていたかはっきりとは覚えていない。また戻ってきた聴覚に頼れば、鳩が2回か3回くらい鳴いたくらいの時間であったと思う。

「はい、おわり。」
おばさんは優しい菩薩のような笑みを浮かべた。
そうしてすくっと立ち上がると、じゃ!と手を一振り、颯爽と高架下から去っていった。

結局野球の練習には遅刻したよ。
でもね、なんか膝が心なしか痛くなくなってたね。


スピリチュアルであれ、なんであれ、信じるものがあれば人は何だってできる?良し悪しはあれど。

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