着物好きの母へ
私の着物好きは母譲りだ。
私が子供の頃、
母は冬になるとほとんど毎日着物を着て真白な割烹着をつけていた。
日常着として常に着物を着るのは祖母の時代で終わっていたのだけれど、
母は私の小・中学生時代の参観日には
普段とは違うよそ行きの着物を着てくるのが常だった。
40年以上も前、まだ学校行事の日が、
母親がお洒落していくハレの日だったころのことだ。
しかしそんな昔でも、学校に着物を着てくる人はめずらしかったし、
友達のお母さんが割烹着を着ているのを見た記憶もない。
だから、私はそんな母を面映ゆくも思っていたし、
少し自慢にも思っていた。
最近そんな過去の思いを正直に母にはなした。
ところが、喜ぶかと思ったのだが、反応は微妙だった。
「ふーん、でもねー、あの頃、
あなたは私になんて言ったか覚えてないかな」
母は私に尋ねてこう続けた。
「お母さんは友達のお母さんより年取ってるから嫌だ、って言ったのよ。」
驚愕。覚えていない。
確かに私は母が30歳の時の子で、
当時にしては高齢出産だったかもしれない。
私は次女だが、
兄や姉のいない同級生の親と比べれば
母は4-6歳くらい年上だっただろうか。
子供は残酷で正直だ。
母の着物姿に憧れる一方で、
私は友達の若いお母さんが羨ましくもあったのだろう。
そして照れくさいから、羨ましさだけを母に表明したのかもしれない。
しかしひどいことをいったものだ。
当時30代後半から40代前半の母は、
娘の言葉にひどく傷ついて
80歳を超えてから聞く娘の誉め言葉など何の慰めにもならないのだろう。
でも私は本当に母の着物姿が好きだったのだ。
少し遅いが50歳を過ぎても母の着物を引き継いでみたい、
母のように着てみたいと思うほどには。
母は、最近は歳を取ったから着物ももう着ることはないと弱気だが、
私はそんな母と着物を着てでかけてみたい。
遅まきながらではあるけれど、
一度母とお芝居でもみながら着物談議に花を咲かせ、
昔はごめんねと是非謝ってみたいのだ。