着物を職業にするということ
17際までの私は将来和裁士になるということを信じて疑っていなかった。
きっかけは小学3年生の時だ。
近所に趣味で機織りをやっている方と知り合いになり、毎日コツコツ通っては糸を紡ぐことや機織りのやり方を教わった。
そうしてできあがったランチョンマットを見て糸を紡ぐ大変さや布を作る感動を知ったのである。
着物というものは、さまざまな技術を集約させた総合芸術であると考えている。
私が体験した技術は紡績と機織りだけであるが、例えば染めや刺繍など着物を作る上で必要な技術は無数にある。
しかし、それらの技術が施されてもそれは1枚の布にすぎない。
どんなに高品質で精巧な技術を織り込んだとしても、丸筒にくるまっていればその美しさを体現することはできないのである。
着物が総合芸術といえる所以はさまざまな技術が360度余すことなく体現できる点にあると思う。
だからこそ、私は着物を仕立てる仕事である和裁士に興味を持ち、目指すようになったのだ。
小学6年生のころから和裁士を目指し、通いたい専門学校も見つけていたので、中学高校時代は和裁士以外の進路をほとんど考えていなかった。
しかし、高校3年生の春、目指していた専門学校の廃校を知った。
そして着物業界で生きていく厳しさを目の当たりにしたのである。
それからさまざまな専門学校に出向き、悩んだ末に私立大学の進学に踏みきった。
私は現在大学2年生であるが、あの時、和裁士への道を断念した選択が正しかったのかは今だにわからないままである。
しかし、着付けを習い、着物が着られるようになることで、着物が持つ美しさを体現する新たな方法を獲得したように感じている。
今後は、その美しさを最大限引き出せるような着付けの技術を習得していきたい。