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『サード・キッチン』 白井 悠 #君羅文庫

自分が何者か?を考えてみる時間って案外ないよなぁと思う。

先日、娘に「パパは何でパパなの?」と言われた。おそらく深い意図はなく、最近娘の中で流行りの「パパのことをあえて”ママ”と呼んでみる」の延長線上でふと出た言葉だったのだと思う。

ただ、とても考えさせられた。確かに生物学上の父親ではあるけれど、なぜ”僕”が娘の父親なのか?なぜ娘は僕の娘なのか?についての答えをしっかりと言葉にできなかった。

考えるべきことが目の前にあって、それについてのアイデアや行動を考え実行する日々。自分はどう思考するのか?自分とは何者なのか?何を知っていて、何を知らないのか?それらについて考えてみることって大事だなと、頭は忙しなく動かすけれど深く思考しない日々を過ごす中で痛感する。

自分が何者であるかについて考える機会というのは、生活のふとしたところに落ちているのだと思う。娘に”問われた”日から深く内省することが増えた。


ただ、普段の生活とはかけ離れた強烈な体験からは”自分について考える機会”が訪れるのは必然なのかもしれないと『サード・キッチン』を読んで思った。

主人公の尚美は、留学生活の中で今までの日本の生活では知り得なかった現実の世界で起こる様々な「差別」や「マイノリティ」の存在に触れていく。

そして、「マイノリティ」としての自分、意図せずして「差別」をしていたかもしれない自分を知る。

社交性のない自分を責める日々の中で、ある日、隣室の扉をノックしたことから、大学の中の様々なマイノリティにとってのセーフプレイスである「サード・キッチン」の仲間たちと出会うことになる。

多様性に溢れ、常に考えるサード・キッチンのメンバーとともに、”失敗”もしながら、今まで知らなかった自分と世界と対面していく。自分自身のアイデンティティについて考え、自分が何者で、どんな意見を持ち、どういった行動ができるのかについて、深く自分と向き合っていく。


尚美の留学を追体験し、尚美とサード・キッチンのメンバーの行動や言葉から、自分について、他者について、文化、マイノリティとマジョリティ、人種、性など普段自分が目を向けていないことに気づき、考えていこうと思った。

尚美の言葉ではないが、成績優秀な尚美がレポートにBをつけられてしまった社会学のグレンジャー教授の「考え続けるしかない」という言葉がやけに耳に残っている。


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