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「幸せな人生ですね?そうでしょ?羨ましいでしょ?」

彼は、そう言って、嬉しそうに私たちを見た。

「僕の20代を輝かせてくれてありがとう。」とも言った。

果たして、この言葉の何%が本心だったのか、私には分からない。
100%かも知れないし、本当は全くそうでないかもしれない。
彼自身が、自分は幸せであって欲しいと、そうでないといけないと思って言った言葉かもしれない。
いづれにせよ、私には、彼の本心を知ることは一生できない。


なりたくて選んだ職業ではなかったかもしれない。
辞めたくても辞められないまま、ここまで来てしまったことを肯定するためかもしれない。

けど、彼はそれをも通り越して
「この道が最善で、幸せなんだよ、きっと。」
そう思うことにしたんじゃないだろうか。


一体彼は何を思い、そう言ったのか。
私には知る由もない。

そして、そのこと自体がとてつもなく悲しい。
知ったところで、私に何かできる訳でもないとわかっているのに、自分の大切な人が、いったい何を思い、何を望んでいるのかさえ分からないことがものすごく悲しいと思う。

私たちはお互いに唯一無二で、他の誰にも代え難い存在であることは確かなのに、何かの拍子にすぐに壊れてしまう関係性でもある。

お互いのことを知っているようで、全く知らない。
見ているようで、見ていない。
自分のことを話しているようで、話していない。
聞いているようで、聞いていない。


なのに、いなくなると困る存在。

あまりにも脆くて儚い、関係。

だからこそ、尊い。

世の中で一番理解し難い関係。

一言では言い表せない関係。


ファンというものは結局、何者にもなれない。


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