見出し画像

「頭が良い」幻想

  みんなが疑問に思っていたりしても、常識に圧されて、そんなものなのだろう、と無理に納得していることは世の中に多い。
 今は、「学校の勉強が出来る=頭が良い」のか? を少し考えようかと思う。成人前の層にとって、とても思い比重を持つ命題だろう。これにはもう一本の背骨があって、運動(スポーツ)も人の判断基準になる。両方平均以上だと文武両道と言われる。
 大部分のティーンが学校生活を送るこの現代では、文武両道が最高の出来栄えで、指標の中心を陣取っている。その他、社会活動などもプラス要因だ。早々にそうした基軸から外れていかないとすれば、これらで評価されていくことを受け入れなければならない。少なくとも「学校」にいる限りは、成績を付けられるし、それによって次の進路が大きく左右される。

 ところで、学校の成績は、次の高等教育を受けるための評価基準以外に、どういう役に立っているのだろうか。そして、学校の成績がいいことを、頭がいいと言ってしまいがちなのをどこまで肯定していいのか。更に、学校の成績がいいといわゆる文系の場合、弁護士、理系だと医師を目指させがち。それが「成績がいい」ことのゴールのように。(あくまで日本での話である。)学校の勉強ができて、弁護士・医師に人間的素養が直結する例もあるだろう。しかし、どうも、そうじゃない人々はわんさかいる。
   そして「学校の成績がいい」のは「試験(テスト)ができる」とほぼイコールだ。テストって大人が介入して教え込むテクニックが物を言う比率が結構高い。要領がいいと得なのは間違いない。学校の現場がこの手法に頼って何の疑問も持っていないはずはないのだが、それでも偏差値だの合格率だのが幅を利かせている限り、放り出すわけにはいかない。全員で放り出せば、他の方法論を模索せざるを得なくなるのだが、そんな面倒なことより巨大戦艦に乗ってその指示に従い、何人どこそこに合格させる、がステイタスである限り、変わりようがない。そういうヒエラルキーに世間一般が慣れ過ぎてしまっている。

 超高級な偏差値で医学部へ行ったけど人の目も見ない医者に診てもらったり、六法全書を脳内に詰め込んで、論理と法で人を言い負かすことばかり鍛錬してきた弁護士に助けてもらいたくないよなぁ。
 どうしたらいいんだろう。
   そしてまた困ったことに、偏差値だので輪切りにされた順列が、結構「合っている」のだ。否定ばかりしていても、長年培われてきた指標は全く意味のないものではないということだ。つまり、一生懸命受験勉強をして、日本に約800近くある大学のうち、偏差値上位5パーセントに入っているような大学の学生は、大人から見て「それなり」率が高い。入社試験に学歴書かせるなという動きもあったが、そこで掬われる者が大多数になっていない現実がある。

 大学進学が50パーセントを超えた今現在の日本社会でも、誰も彼もが旧帝大に入るためのような受験勉強はできないに決まっている。けれども、「大学への受験勉強」くらい乗り超えろよ、という事実。一方、AO入試なども隆盛を極め、従来型のマークシートや記述だけの入試から脱却しようも試みられている。そして受験は大学のための代名詞ではない。もう、幼稚園から始まってしまっていることも脇には置けない。
 私自身は結構受験勉強(大学だけ)をした身で、全然その後の人生の実になっていないとは思わない。あの時期、フォアグラを作るために無理矢理餌を喉から突っ込まれるのと同様、吐きそうになりながら知識を詰め込み、後でどれだけ糞になって出てしまったかはさておき、やっぱりあれは超えないと駄目だったんだな、と後年感じたものである。あんな「勉強」の成果なんか屁でもない。何の足しになっていると言うんだ、と憤る筋もある。確かに、入試突破がゴールになってしまうことも多い。でも、更に先に進むなら、フォアグラのための餌をどう吸収できるかに掛かっており、そこからが「頭のよさ」の本領発揮である。パズルのピースのような断片的な知識ばかり問う問題を突破して、その後でそれを拾い集められるか、再構成させられるか、シナプスを伸長させていけるか、なのだ。

  しかし、「頭がいい」の定義は人の感覚によって、とてもレンジが広い。当然、点数では計れない能力は沢山ある。なのに、やはり評価は点数に頼ってしまう。何でも「可視化」しろと言われ、数字を信じていく。けれどその先を埋めるのはやはり人の感性であって、AIの判別ではないのだろう。膨大な凡例から弾き出す傾向や確率より、予測できないひらめきや人同士のケミストリーが信頼できると言い切れないが、生身が存在する以上そこをよすがにしない訳にいかない。
 でもね、それでもレッテルが好きなのよね。そうなの。分かるんです、それは。私もそう見ちゃうし、見られるし――。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?