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違うから、

「ままならないから私とあなた」 朝井リョウ


天才少女と呼ばれ、成長に従い無駄なことを切り捨てていく薫と、無駄なものにこそ人のあたたかみが宿ると考える雪子。すれ違う友情と人生の行方を描く表題作。


この本には、「レンタル彼女」と表題作である「ままならないから私とあなた」の2つの物語が収録されていたが、テーマは一貫して「人との違い」だったように思う。


自分と考えや価値観が完全に一致する人は、おそらく世界中のどこを探しても存在しないだろう。全員が異なる一面を持つ人間同士が共に生きていくことは決して容易なことではない。考えの衝突から言い争いになることもあれば、人間であるからこその不器用さが非効率を生み出すこともある。

これらのことを「人間のあたたかみ」と主張するのが雪子、「無駄である」と主張するのが薫である。これを読んでいるあなたはどう思うだろうか。


最後に、私の意見と共に印象に残った台詞を紹介して終わろうと思う。
とある場面で、雪子は心の中でこのように呟いていた。

「違うから、愛しい。違うから、全部知りたくなる」

私は、雪子のこの言葉に酷く共感した。自分と全く同じような人と時を過ごすことを想像すると、最初のうちは気が合って楽しいかもしれないが、そのうち飽きるだろうと思った。それもそのはず、私が他人と過ごして楽しさを感じるときは自分と違う考えや価値観に触れたときだからだ。


例えば、仲違い。あるいは、手書きの手紙など。共感だけしていれば、メールで打ち込んでクリック1つで送ってしまえば楽なのに、人間の動きによって生み出される感情の動きや時間の消費。私は、これらを無駄と一蹴することはできない。

仲直りの際に訪れる、さらにお互いのことを知ることができた喜び。相手の顔を思い浮かべながら、いつもより丁寧に文字を書いて渡しにいく道中の高揚感。
どこまでも人間らしく、どこまでも愛しいと感じざるをえない。

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