JW44 土を取れ
【神武東征編】EP44 土を取れ
八十梟帥(やそたける)と兄磯城(えしき)の軍勢に驚愕した、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)は、打開策を得るため、夢を通じて、天照大神(あまてらすおおみかみ)(以下、アマ)に助けを乞うことにした。
様式美というか、お決まりというか、案の定、夢の中に天照大神が現れた。
アマ「寝るとは・・・そなたにしては、良き考えじゃぞ。」
サノ「と・・・とにかく、助言を御願い致しまする!」
アマ「ならば聞くが良い。天香久山(あまのかぐやま)の社(やしろ)の中の土を取り、天平瓮(あまのひらか)を80枚作るのじゃ。」
サノ「天平瓮とは?」
アマ「平らな『かわらけ』という意味じゃ。素焼きの土器ということじゃな。」
サノ「す・・・素焼き?」
アマ「なにゆえ、分からぬのじゃっ!」
サノ「ど・・・読者のためにござりまする。」
アマ「何もつけずに、そのまま焼くということじゃ。」
サノ「しょ・・・承知致しもうした!」
アマ「それから、厳瓮(いつへ)も作って、天神地祇(てんじんちぎ)を敬い祀(まつ)れ。天神地祇とは、八百万の神ということじゃ。厳瓮とは、神酒(みき)を入れる神聖な瓶のことじゃ。それと、厳呪詛(いつのかしり)もするのじゃぞ。飲食を慎み、心身を清めて、呪いの言葉を言うことじゃっ! 分かったな!?」
サノ「わ・・・分かりもうした。」
返事をしたところで、サノは夢から覚めた。
その時、弟猾(おとうかし)がやって来て、サノに一策を披露(ひろう)してきた。
弟猾(おとうかし)「磯城邑(しき・のむら)の八十梟帥と、高尾張邑(たかおわり・のむら)の赤銅(あかがね)の八十梟帥が中心になってるみたいです。天香久山の土を取って、天平瓮を作り、神々を祀れば、勝てるんじゃないでしょうか?」
サノ「そ・・・それは、夢と同じぞ。これは吉兆(きっちょう)? 天祐(てんゆう)?」
こうして、サノ一行は、天照大神の奇策に従うことにした。
サノ「・・・ということで、天香久山の社の中の土を取って参れ!」
その時、八咫烏(やたがらす)(以下、三本足)がツッコミを入れてきた。
三本足「おめえ馬鹿かっ?! それとも、アマちゃんが馬鹿なのかっ?!」
サノ「馬鹿とは、天照様に失礼ではないか! それに、我(われ)も馬鹿ではないっ!」
三本足「じゃあ、知ってんのか? 天香久山は、敵陣の向こう側ってこと・・・。」
サノ「なっ? 敵陣の向こう側?」
三本足「そうだっ。敵陣を越えて行かなきゃ、辿り着けねぇんだ。」
サノ「我はともかくとして・・・天照様は馬・・・。」
三本足「それ以上、言うんじゃねえぞ! アマちゃんに聞こえっぞ。」
そこへ、天種子命(あまのたね・のみこと)が割って入ってきた。
天種子(あまのたね)「ここは、変装して山に向かうべきやと思いますが、如何(いかが)にあらしゃいます?」
サノ「変装?」
天種子(あまのたね)「八十梟帥(やそたける)が警戒せんよう、変装して向かうんです。」
サノ「なるほど・・・。よしっ! その手で行こうぞ。」
変装大作戦を決行することにしたサノは、椎根津彦(しいねつひこ)(以下、Seesaw)と弟猾を呼び出した。
サノ「椎根津彦よ。汝(いまし)は翁(おきな)をやれっ。爺ちゃんということじゃ。弟猾よ。汝は嫗(おうな)をやれっ。婆ちゃんということじゃ。」
Seesaw「爺ちゃんですか?」×2
弟猾(おとうかし)「婆ちゃんですか?」
サノ「じゃがっ(そうだ)! 汝(いまし)ら二人は、天香久山に向かい、こっそり埴土(はにつち)を取って参れっ。新しい国造りの大業(たいぎょう)の成否は、汝らの務めにかかっておる。慎重に頼むぞ。」
Seesaw「わ・・・分かったっちゃ。」×2
弟猾(おとうかし)「分かりました。任せてください。」
未曽有(みぞう)の作戦を任された二人。
無事に成功できるのか?
次回につづ・・・
Seesaw「まだ、終わっちょらんっ。」×2
弟猾(おとうかし)「そうですよっ。これからなんですからっ。」
そこへ、初登場の人物がやって来た。
椎根津彦の息子、志麻津見(しまつみ)である。
志麻津見(しまつみ)「父上、とうとう出てしまったに。うちも行くっちゃ!」
Seesaw「これまで他の者らの陰に隠れ、全く登場の機会を失っていた汝(いまし)が、ついに登場するんか?」×2
志麻津見(しまつみ)「味日(うましひ)やヤマトたちは活躍しているのに、うちだけ仲間外れは嫌っちゃ。同じ第二世代として、活躍したいんやに!」
Seesaw「じゃっどん、今回の作戦に連れていくことはできん。」×2
志麻津見(しまつみ)「な・・・なして?!」
Seesaw「汝(いまし)は『記紀』にも登場せんし、我が君からのお許しもいただいちょらんのや。連れては行けないっちゃ。」×2
志麻津見(しまつみ)「そこを何とか!」
弟猾(おとうかし)「連れて行ってあげればいいじゃないですか。」
Seesaw「ダメっちゃ! 次の機会まで待っちょれ!」
志麻津見(しまつみ)「わ・・・分かったっちゃ。」
弟猾(おとうかし)「それじゃあ、作戦会議くらいには参加させてあげましょうよ。」
Seesaw「仕方なかね。それくらいなら許してやるっちゃ。」
志麻津見(しまつみ)「弟猾殿! ありがとうっちゃ!」
こうして、初登場の人物をまじえ、作戦会議が始まったのであった。
次回につづく
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