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JW43 八十梟帥の軍勢

【神武東征編】EP43 八十梟帥の軍勢


吉野地方を巡幸(じゅんこう)した狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行は、三人の一風変わった人たちに遭遇した。

そして、最後の一人、魚を獲る人こと、苞苴担(にえもつ)との会話は続くのであった

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ここで博学の天種子命(あまのたね・のみこと)が苞苴担に尋ねた。

天種子(あまのたね)「苞苴担殿。五條市の原町(はらちょう)に、阿陀比売神社(あだひめじんじゃ)があらしゃいますが、汝(いまし)と関わり合いがありますのんか?」

阿田と原町
阿陀比売神社外観
阿陀比売神社2

苞苴担(にえもつ)「祭神は阿陀比売(あだひめ)ですが、この神様が、なんと、木花開耶姫(このはなのさくやひめ)とも言われてるんですなあ。」

サノ「なっ?! ひいひいばあさま!?」

苞苴担(にえもつ)「息子の山幸彦(やまさちびこ)も祀られてますよ。サノ様のひいじいちゃんですな。その兄の海幸彦(うみさちびこ)も・・・。隼人(はやと)の阿多君(あた・のきみ)の祖と言われてる人物ですな。隼人は薩摩(さつま)の人のことですよ。」

サノ「なるほど、阿多と阿陀・・・。何か関連がありそうじゃな・・・。」

苞苴担(にえもつ)「天武天皇(てんむてんのう)の時代に、南九州から近畿への移住が始まったと考えられてるんで、それが伝承に反映されてるんじゃないかと・・・。」

サノ「様々な時代のことがつながっておるのじゃな。」

こうして、サノ一行は、吉野の三人と邂逅(かいこう)を果たし、地元の協力を得ることに成功したのであった。

地理不案内な状況から抜け出したのである。

そして、紀元前663年9月5日、サノは菟田(うだ)の高倉山(たかくらやま)に登った。

高倉山は、現在の奈良県(ならけん)宇陀市(うだし)大宇陀守道(おおうだもち)の高角神社(たかつのじんじゃ)付近か、大宇陀春日(おおうだかすが)の宇陀松山城(うだまつやまじょう)があった古城山(しろやま)と考えられている。

高倉山(高角神社)
高角神社鳥居
高角神社拝殿
高倉山(古城山)

ここで、筋肉隆々の道臣命(みちのおみ・のみこと)が疑問を呈してきた。

道臣(みちのおみ)「我が君、なして山に登っちょるんや?」

サノ「山に登ってやることといえば?」

主君の質問に対し、五十手美(いそてみ)(以下、イソ)が答える。

イソ「周りを眺望し、これからどう進むか検討するのですな。」

サノ「その通りじゃ!」

山頂に辿り着くと、サノは周辺を眺め廻した。

その時、異様なものが目に飛び込んできた。

西の方角に、恐ろしい光景が広がっていたのである。

サノ「な・・・なんじゃっ! あれは!?」

天種子(あまのたね)「如何(いかが)なされました?」

サノ「だ・・・大軍勢が・・・集結しておる・・・。」

天種子(あまのたね)「なっ?!」

驚く天種子の傍で、弟猾(おとうかし)が吼える。

弟猾(おとうかし)「国見丘(くにみのおか)に軍勢が集まってますっ! それに、あの坂には、女軍(めいくさ)。あっちの坂には、男軍(おいくさ)もいますよっ!」

サノ「な・・・なんじゃ? 女軍? 男軍?」

弟猾(おとうかし)「まあ、別動隊ってとこですね。」

天種子(あまのたね)「国見丘は、現在の経(きょう)ヶ塚山(つかやま)といわれております。標高889メートルにあらしゃいますなあ。」

経ヶ塚山

つづけて、剣根(つるぎね)が説明を始めた。

剣根(つるぎね)「このことにより、女軍がいる坂は女坂(めさか)と、男軍がいる坂は男坂(おさか)と呼ばれるようになるのじゃ。」

天種子(あまのたね)「女坂が、現在の女寄峠(みよりとうげ)で、男坂が小峠(ことうげ)にあらしゃいます。」

女坂・男坂

サノ「そんなことは、あとでやってくんないっ。」

その時、夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)が北の方を指差した。

ヤマト「我が君っ! あちらにも、何か面妖(めんよう)なものがっ。」

サノ「な・・・なんじゃっ?! 炭火を起こし、道を塞(ふさ)いでおるぞ!」

ここで、再び天種子命が説明を始めた。

天種子(あまのたね)「炭を置いていたんで、墨坂(すみさか)と呼ばれるようになったそうにあらしゃいます。ちなみに、現在の西峠(にしとうげ)といわれております。宇陀市の榛原萩原(はいばらはぎはら)にある墨坂神社(すみさかじんじゃ)の近くですなあ。」

墨坂
墨坂神社
墨坂神社1

サノ「説明、大儀(たいぎ)! じゃっどん、あの者らは何者なのじゃ?」

そこへ、八咫烏(やたがらす)(以下、三本足)がやって来た。

三本足「あいつらは地元の豪族連合軍だっ。ちなみに、あいつらのこと、八十梟帥(やそたける)って呼んでくれよなっ。たくさんの猛者(もさ)って意味だっ。」

サノ「呼ぶも何も、我らの時代の呼び方じゃ!」

道臣(みちのおみ)「ところで、三本足よ。あの平地で、うようよしている軍勢はなんや? あれも八十梟帥か?」

三本足「ああ、あれは兄磯城(えしき)の軍勢だ。磐余邑(いわれ・のむら)に陣取ってんだっ。」

磐余

サノ「なっ?! 八十梟帥とは別物なのか?!」

三本足「ああ、そうだな。ちなみに、磐余っちゅうのは、今の桜井市(さくらいし)中部から橿原市(かしはらし)南東部にかけての古い地名だ。」

サノ「汝(いまし)らの説明で、緊張感が台無しじゃ。じゃっどん、どんげかせんといかんっ。」

イソ「ど・・・どう致しまする?」

天種子(あまのたね)「どうしはります?」

サノ「よしっ! 神々に祈って、寝る!」

ヤマト「ね・・・寝るのですか?」

サノ「そうじゃ。天照大神(あまてらすおおみかみ)に、夢を通じて助言をもらうほかない。」

道臣(みちのおみ)「かっこよく言っちょりますが、神頼みっちゅうことっちゃね。」

サノ「それは言わんでくんない・・・。」

こうして、サノは身を清め、心を休め、神々に祈りを捧げ・・・寝たのであった。

つづく



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