JW47 撃ちてし止まん
【神武東征編】EP47 撃ちてし止まん
八十梟帥(やそたける)との戦いに向けて、神々を味方につけるため、祭祀を執り行った狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。
無事に祭祀は成功に終わったが、まだ、不完全と見たサノは、更なる祭祀を計画するのであった。
そこでサノは、筋肉隆々の道臣命(みちのおみ・のみこと)を呼び寄せ、こう言った。
サノ「我(われ)は、これより高皇産霊神(たかみむすび・のかみ)の顕斎(うつしいわい)をおこなう。」
道臣(みちのおみ)「顕斎(うつしいわい)って、自分の体を憑代(よりしろ)にしておこなう祀りのことっちゃね?」
サノ「じゃが(そうだ)。ちなみに、憑代とは、自分の体を器(うつわ)にして、神や別の人の魂を呼び込むことじゃ。」
道臣(みちのおみ)「それで、おいを呼んだのは、どういうことっちゃ?」
サノ「神を呼び寄せる役割の斎主(いわいのうし)は、本来、女性がおこなう役目じゃが、ここにはオナゴがおらぬ。そこで、道臣よ!」
道臣(みちのおみ)「い・・・嫌な予感がする・・・。」
サノ「女装してくんない! 厳媛(いつひめ)という名を授けようぞ!」
道臣(みちのおみ)「なして、おいがっ!?」
サノ「ほかの者らでは、化け物のようになる。それに比べて、汝(いまし)は中性的な男前やかい(だから)、女装しても気にならぬと思ったのじゃ。」
道臣(みちのおみ)「ちょっ、言っている意味が分からないっちゃ。息子でも良かち思うんやけど。」
するとそこで、サノの息子、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)がツッコミを入れてきた。
タギシ「父上っ! 道臣っ! 『記紀』に書かれてもいない、やり取りをしないでくだされっ。それよりも、早く進めてくだされっ!」
サノ「う・・・うむ。では、道臣の女装は決定ということで・・・。埴土(はにつち)で作った瓮(かめ)が、厳瓮(いつへ)という名称になっておるので、祭祀に使用する、他のものにも、名前を付けようぞ。」
タギシ「火と水と薪(たきぎ)と草と粮(くらいもの)ですな。粮とは、神饌(しんせん)、すなわち神様のお食事という意味ですな。」
サノ「じゃが(そうだ)。では、火の名前は厳香来雷(いつのかぐつち)に決定じゃ。」
道臣(みちのおみ)「水の名前は厳罔象女(いつのみつはのめ)に決定やじ。」
タギシ「粮(くらいもの)の名前は厳稲魂女(いつのうかのめ)に致しましょう。」
サノ「薪(たきぎ)の名前は厳山雷(いつのやまつち)に決定じゃ。」
道臣(みちのおみ)「そして、草の名前は厳野椎(いつののづち)にするじ。」
こうして、顕斎(うつしいわい)がおこなわれた。
その詳細な内容は「記紀」にも記されておらず、全くの謎である。
秘密の儀式なのかもしれない。
ここで、前回、大正時代から召喚されてきた、森口奈良吉(もりぐち・ならきち)さんが、疑問を呈してきた。
奈良吉「あのう、天皇陛下・・・。なんで、いろんな祭祀をおこなったんですか?」
サノ「全軍の士気を上げるためじゃ。たくさんの敵を見て、皆、萎縮(いしゅく)しておったゆえ、あの手、この手で、大丈夫だと安心させる必要があったのじゃ。」
奈良吉「なるほど・・・。」
サノ「それから、ならきっつぁん・・・。大正年間に戻ったら、此度のことは、内緒にしておいてくんないっ。時空の乱れが起きるやもしれぬからな・・・。」
奈良吉「どうせ誰も信じてくれへんから、話すこともないでしょうなぁ。」
サノ「確かに、そうじゃな・・・。それでは、ならきっつぁん、気を付けてなっ!」
こうして、奈良吉は大正時代に帰っていき、サノたちは、八十梟帥との戦いに赴くこととなった。
紀元前663年10月1日のことである。
狭野尊一行は、祭祀に使った厳瓮(いつへ)の粮(くらいもの)を食べ、武器を整えて出撃した。
サノ「厳瓮に供した神饌(しんせん)を食べることによって、神の御加護を得たというわけじゃ。一種の験担(げんかつ)ぎをやってから、出撃したのじゃ。」
こうして、皇軍は国見丘(くにみのおか)の八十梟帥(やそたける)を攻撃した。
サノの心理作戦は功を奏し、あっという間に撃破してしまった。
必勝を期(き)していたサノは、ここで歌を謡(うた)い、想いを言霊(ことだま)に乗せた。
神風(かむかぜ)の 伊勢(いせ)の海の 大石(おおいし)にや い這(は)ひ廻(もとほ)る 細螺(しただみ)の 細螺の 吾子(あご)よ 吾子よ 細螺の い這ひ廻り 撃ちてし止(や)まむ 撃ちてし止まむ
ここで、天種子命(あまのたね・のみこと)が解説を始めた。
天種子(あまのたね)「歌の意味は・・・。神風の伊勢の海の・・・大石に這いまわっている細螺(きしゃご)のように、細螺のように・・・我が軍よ! 我が軍よ! あの細螺のように、丘を這いまわって、必ず敵を打ち負かそう! 撃たずにおくものかっ! という意味にあらしゃいます。ちなみに、大石を国見丘に例えとるんや。」
続けて、目の周りに入れ墨をした大久米命(おおくめ・のみこと)も解説に加わった。
大久米(おおくめ)「これが、セカンドシングル『プリーズ プリーズ ミー』だっ。覚えておいてくれよなっ。」
サノ「まだ、そのネタをやるのかっ! 禁止にしたはずぞ!」
大久米(おおくめ)「だって、最近、出番がないんすもん・・・。」
サノ「分かった、分かった。では、大久米と道臣(みちのおみ)よ。汝(いまし)らは、敵の残党を討ち滅ぼせっ。残党といっても、まだまだ多勢やかい(だから)、一気に殲滅(せんめつ)するのじゃっ!」
道臣(みちのおみ)「じゃっどん、どうやって討ち滅ぼすんです?」
どうやって討ち滅ぼすのであろうか?
次回につづく
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