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満月とほうれん草の胡麻和え

ビルの隙間から覗いている”ほぼ満月”を見ながら家に帰る途中、今日あったことをぐるぐると考えていた。歩調は速く強くなり、考えるほどにモヤモヤが募る。晴れない。久しぶりに気持ちが晴れない。どうした私!

帰りにご飯を買おうと思っていたスーパーが棚卸しでクローズしていたため、コンビニに行くと昨日の今日だからか棚は空っぽだった。

閉店時間迫る八百屋に行くと、ほうれん草が58円だった。即購入を決め、モヤモヤを抱えたまま家に帰る。

「すっごい美味しい胡麻和え作っちゃうもんね!!!」と悪態つきながらほうれん草の泥を落とし、熱湯へ茎からダイブ。

鮮やかな緑を目にしながら、また考える。

多分明日になればどうでもよくなっている事なのに、人から言われた言葉の端々が気になって頭から離れない。誰かから言われたほんの些細なひと言や、一瞬見せた表情から深読みする自分の想像力には、ある意味脱帽だ。今日の私のコンディションだから気になったのであって、明日のコンディションだったら気になってなかった事もきっと多いだろうに。

みんな自分の都合よく生きている。たとえば、話したい時に話して、忙しくなれば相槌もほどほどに耳を塞ぐ。攻撃的なことを言ったかと思えば次の瞬間には反省している。

例に漏れず、私もそうなんだろう。そして適当に流せばいいものを、しっかりと受け止めてしまうこの性格にすこし情けなくなる。

そんなこと考えていたら、ほうれん草を湯掻いている時間が長めになってしまった。まぁいいか、と思いながら熱湯から上げ、今日あった出来事のもやもやを反動にしっっかりとほうれん草の水気を絞ったら、すりごまたっぷりのボウルに入れてみりん、めんつゆ、砂糖で味付けして混ぜるだけ。

予想通り、とてつもなく美味しいほうれん草の胡麻和えが出来た。もりもり食べられる。

「おいしいもんね!!!」と誰に言うでもなくもぐもぐ食べていると、だんだんと今日の出来事が、どうでも良いものに変わってくる。

ふと、満月の前後は情緒が揺れると聞いたことを思い出した。

今日のことはすべて満月に包んでもらうことにしよう、そう決めてひたすらに甘めのほうれん草の胡麻和えを口に運ぶ木曜の夜。


【本日のプレイリスト】

『夜風とはやぶさ』『春は溶けて』indigo la End、Tokimeki Records 楽曲全般


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