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【書評】こんなんいかが?

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忘れた頃になんども読み返す愛すべき紙の束。カバーについた手指の脂、紙の匂いと手触り。それはともに過ごした時間の記憶。本はもはや生きもの。
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2023年7月の記事一覧

自分の内面を掘り続けても、閉じたナルシズムが待っているだけ。その先に出口はない。

自分の内面を掘り続けても、閉じたナルシズムが待っているだけ。その先に出口はない。

 こちらの都合や欲望におかまいなしに、そこに「冷たく」ありながら、しかしこちらをじっと見つめている。
 この得体の知れないもの。
 それが「自然」という存在。

 対して「人間」はたかが得体が知れています。
 相手は、敵なのか味方なのか。
人は互いの得体についての関心は、どうしたってそこにしかないのですからね。

■「家守綺譚」(いえもりきたん) 梨木香歩/新潮文庫

 『家守綺譚』は、自

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川端康成「眠れる美女」  現実の隙間に生の指をこじいれていく荒々しさ。息苦しくもスリリングなエロスの淀み。

川端康成「眠れる美女」 現実の隙間に生の指をこじいれていく荒々しさ。息苦しくもスリリングなエロスの淀み。

もうこの世にない人がいいのです

なぜなら
誰をも裏切らないから
誰のものでもないから
決して手にすることはないから
ずっと美しいままだから

うつつのものでなければ
手に入れようともがくこともないし
成就のむなしさを予感することもないし
裏切って苦しめることもないし
知りたくないことを知って憎むこともありません

『眠れる美女』 川端康成/新潮文庫

うつつの切り裂き魔・カワバタが見せる地獄の所

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ブローティガン「西瓜糖の日々」 語る前に、書きたくなる。それは死者たちのつぶやきへの弔い。

ブローティガン「西瓜糖の日々」 語る前に、書きたくなる。それは死者たちのつぶやきへの弔い。

聴いて演りたくなった音楽。
食べて作りたくなった料理。
読んで書きたくなった文章…。

そして、そのように生きてみたくなった人。

そう行動したくなるもの。
目的、などという不純をもたらすものがないときに出会うもの。

それが自分にとっての本もの。

■「西瓜糖の日々」リチャード・ブローティガン/河出文庫

 すべてがつまるところ他意に埋まり手段に堕ちる「目的意識」なるものから離れたいとき、手にし

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内臓を次々と素手でつかみ出す『ジョゼと虎と魚たち』。田辺聖子の柔らかい剛腕、山田詠美のはだかのカミソリ。

内臓を次々と素手でつかみ出す『ジョゼと虎と魚たち』。田辺聖子の柔らかい剛腕、山田詠美のはだかのカミソリ。

自分を変えだすと孤独がはじまる。
さっきまで隣りにいたはずの人がいない。
よそよそしい視線が痛い。

寂しい思いもするが、それは自分が新しいステージに移った証拠。
だから、落ち着いてまわりを見回してみる。

そんな自分を、同じ気持ちで遠くからおずおずと見つめている目を見つけるだろう。

孤独は新しい出会いのはじまり。

『ジョゼと虎と魚たち』 田辺聖子/角川文庫

 八篇の短編集。解説は山田詠美。

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