見出し画像

あなたも私も味音痴で、味音痴しかいない幸せな(争いなき)世界が来るかも知れない。

美味しい、いや、美味しくない。
美味しいと言っている人の気が知れない。
私の味覚はマトモだけど、あの人はマジ味音痴。

なんてやり取りが絶えない、1億総グルメ社会ニッポン。

食○ログで点数の高い店(=単価の高い店?)にはほぼ全員が手放しに「美味しい!」と愛と自己顕示欲に溢れた書き込みをするが、それほど点数が高くないお店の口コミを是非、ご覧頂きたい。
"誹謗中傷は禁止"がルールだから、書きぶりは「慇懃」なのだが、美味しくない、美味しいと言っている人の気が知れない、と(明言は避けてはいるが)露骨に思ってるなー、とヒシヒシと感じる書き込みが散見される。

人の感じ方は多様だ。
(↑今日はこの話。)

体調や気分に応じて食べたくない、美味しく感じないな、なんてことは誰にでもある。自分の状態を棚に上げて、「料理する人が変わった?」とか「味が変わった?」と思うくらい身勝手なもんだ。

これほど個人でも変わるものなのだから、美味しいという感覚は人それぞれ、アヤフヤなものだなぁ、と。そんなことを考えていた際に、ちょうど下の記事が流れてきた。

高音の音楽を聴くと、食べ物を甘く感じる:研究結果
https://twitter.com/Shin_Kikuchi/status/1188632722018750464?s=09

「高い音を聞くと、甘みを強く感じる」

という研究結果だそうだ。音を調節することで味付けが変えられるという意味で、「ソニック・シーズニング」という造語まで生まれている。新しいね、これは。

音楽や音量で気分が変わるのは皆が体験的に知っているはずだが、音の高低で味覚がコントロールできるのであれば、夢が広がる。凡庸な味付けを上等なスイーツに感じさせることすらできるようになったら、未来だ。

高温を聞かせれば薄い甘みでも強く感じさせられるのだから、真っ先にダイエット文脈で注目されるだろう。そんな未来の話ではなく、そのうちソニック・ダイエットとか、サウンド・ダイエットとか、ハイトーン・ダイエットが現れる、と今のうちに皮肉を込めて断言しておこう。

また、こうした研究は日本にもある。味(味覚)以外のアプローチで、「食べる」ことに向き合っている男が僕の周りにいるので、紹介したい。

鳴海 拓志(なるみ たくし)。

博士(工学)。東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻

という肩書を持つ、先端的な研究者だ。詳細な自己紹介は大学のサイトなどに譲るとして、僕から見ると鳴海先生は「VRや先端技術を使って人の"認知"を研究している人」だ。彼の研究は本当に面白いので、幾つか紹介したい。

まずは、これ。

「メタ・クッキー」実験。

VRゴーグルを装着した人に映像を見せながら、ひたすらバタークッキーを食べてもらう、というものだ。

食べているのは同じクッキーなのたが、大きなクッキーの映像を見ながら食べる場合と、小さなクッキーの映像を見ながら食べる場合は、なんと摂取量が変わるのだ。

大きなクッキーを見ているときは、枚数が食べられなくなる(減る)し、小さなクッキーを見ているときは、枚数が食べられてしまう(増える)そうだ。

さらに、チョコレートクッキーの映像を見せたり、フレーバーを嗅がせながらただのバタークッキー食べてもらうと、多くの人が「チョコレートクッキー」を食べたと感じる、という研究結果も得ている。

さらに、面白いのが、これ。

「拡張満腹感」という実験。

同じ味付けや同じ量のパスタなのだけど、ライトや映像技術を使って「皿のサイズが違うように見せる」とどうなるか?

なんと皿が大きい(食べ物が少なく見える)と、人は沢山食べられる。逆に皿が小さい(食べ物が多く見える)と、食べる量が減ってしまうのだ。

※詳しくはこちらや、ネットにたくさんある鳴海先生の記事をご参照あれ。 https://media.dglab.com/2019/01/17-narumi-01/

こうした「ソニック・シーズニング」や「メタ・クッキー」、「拡張満腹感」などの技術を組み合わせれば、

「食べたいものを満足するまで食べても、太らない」とか、「薄い味付けのものを、しっかりした味付けだと思って食べられる」、なんてことが可能になる。味覚ではなく、聴覚、視覚、嗅覚に働きかけることで、誰にとっても「美味しいと感じられる」ように設定できるようになる、ということだ。これなら、

「全員が味オンチでも気付かない、幸せな世界」が作れるではないか。

鳴海先生をはじめ、こうした「感覚をハックする」研究は世界中で行われている。そして既に、(経験則的ではあるが)実用化されている技術もある。こうした技術がいつの間にか社会に普及して、僕ら全員、気付かぬうちに固形食料をかじりながら「今日のステーキは最高だね!」なんていう、デストピアが待っているかも知れないのだ(笑)。

妄想はさておき。まずは安心して欲しい。

今の家庭や飲食店では、それほど高度な技術が導入されている気配はない。食事の前に、おもむろにVRゴーグルを装着させられることもない。

その代わりに、視覚、聴覚、嗅覚はもちろん、気温(体温)、湿度、気圧や空気の流れ、服装、姿勢、家具・道具、他人との距離、一緒にいる人との関係などでも、「美味しいと感じるかは、変わる」ことが分かっている。

「美味しい」は、味覚の正確さでもなんでもなく、あらゆる感覚の総和なのだ。

そういう意味でも、誰もが「味だけで美味しさを測れない=味音痴なのだ」という割り切りがあると、人の好みにも優しくなれて、結果幸せな社会に一歩近づく気がするのだ。

(こんな未来な話をできる方は、是非フォローやシェアわお願いします。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?