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友人に葉巻を選ぶ

 『葉巻吸ってみたいから
あいちゃんのお店行ってもいい?』

 大学時代の女友達から来たメッセージに
小さくガッツポーズをした。

 バーで働き始め、
ゆっくりお酒を飲みながら葉巻を吸う
っていいよと話しても、喫煙しない、
お酒を飲まない友人が多く、
あいまいな笑みを返される。

そんな中、彼女は学生時代から
よく一緒にお酒を飲んでいて、
社会人になってタバコを吸い出した。

バーに興味があると言っていたので、
うちの店でバーデビューするついでに
葉巻デビューもしちゃえば?
と誘っていたのだ。


『いいよー。ゆっくり吸うなら早めの
時間がいいけど、来れる日ある?』
『金曜日だったら18時に行けるよ』
『おっけー。じゃあ金曜で!』

たいていのお客さんは食事を済ませて
から来るので、混み始めるのは20時以降
だから、2時間近く、
ゆっくり葉巻を吸ってもらえる。


金曜日の夜、ガラス扉の向こう側に、
見知った姿を発見して手を振った。
「いらっしゃいませー。
カウンターにどうぞ。」

1人がけのソファをひき友人を座らせる。
バーの店内が珍しいのか、浅く腰掛け、
あちこち見渡していた。

「めっちゃバーの人じゃん!」
「そらバーで働いてますからね。」
 ドリンクのメニューを渡し、
見ている間に葉巻の準備をする。


包み込むように握り、
やわらかさを確かめる。


同じ種類の葉巻を何本か触り、
一番やわらかさが均一なものを選んだ。
固い部分があると、
そこだけ煙の通りが悪く、
吸いづらくなってしまうためだ。


「葉巻、オススメのを選んどいたよ。
全部『ダビドフ』っていうブランドの
なんだけど、違うシリーズから1本ずつ
シリーズごとに味の系統が違うの」

用意したものをカウンターの上に並べる
「まずこれがダビドフの中で
王道のクラシックNo.2ってやつ。
コーヒーで言うとカフェラテみたいな味

真ん中のが、グランクリュっていう
シリーズのNo.4。これは豆乳ラテ
みたいな感じ。

最後がミレニアムブレンドの
ペティコロナ。
これは黒糖入れたコーヒーっぽい。」


「…豆乳?」
「本当に豆乳の味するわけじゃないよ?

すっきりした苦みのコーヒーを基準に、
グランクリュは豆乳入れたような感じなの

牛乳に比べて独特のコクと風味じゃん?
ちょっとクセのある感じが似てるの」


「へー。じゃあこれにする」
彼女が指さしたのは
ダビドフ・グランクリュ・No.4だ。

「あ、どっかのバーで葉巻吸うとき、
名前忘れて豆乳ラテみたいな味のやつ
下さいって言っても通じないからね。」

葉巻に火をつけ、
肺に入れないように気をつけてね、
とだけ言って友人に手渡す。

「飲み物はどうする?」
「葉巻吸うときって何飲むのがいいの」
「とりあえず自分が好きなの飲みなよ」


葉巻に合わせるならコレ!
という正解はない。


人によって味覚が違うし、
シチュエーションもさまざまだ。

友人の場合は初めての場所、
初めての葉巻なので、

最初の飲み物は自分の知っている
お酒にして欲しかった。

アルコールが入れば多少は
リラックスできるだろう。

「じゃあジントニックにしようかな」
「かしこまりました」
グラスに氷を入れてマドラーで混ぜる。
ジンとトニックウォーターを注ぎ、
軽く混ぜてコースターの上にそっと置く


「これ飲んで
一回口の中さっぱりさせてから
吸うと美味しいよ」


「…ほんとだ。さっきより
味がはっきりする気がする」

葉巻の煙と共にほっと一息つくと、
友人はソファに深く腰掛けた。


店内が混み始めたころ、
友人は葉巻を吸い終わり、
また来るねと言って帰っていった。

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