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【弟はいつもそばにいる】 #32

”子どもと遊ぶ”が仕事の
小児の作業療法士ミキティです。

私には
”知ってもらいたい家族がいる”

私が関わる障がいを持つ
お子さんとその家族。
その家族のストーリーから
いつも沢山の学びがあります。

その一部を皆さんに
知ってもらいたくて綴っています。
(過去の投稿はコチラで読めます)

今回のテーマ:
「ボクと弟はいつもママを思ってる」

1.「何、それ…無事に生きられるの?」


双子の赤ちゃんを授かった
とわかった。

こぼれ落ちそうな笑顔が
さらに輝く。

彼女はのちに
ユウトくんとエイトくんの
ママになる人だ。

初めての出産で不安もあったが
楽しみだった。

妊娠4ヶ月を過ぎた頃、
妊婦検診で、聞いた事もない
TTTS(双胎間輸血症候群)であると
知るまでは…。

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2.TTTS(双胎間輸血症候群)とは

一般的に胎児は胎盤と
つながっている。
胎盤は血管がとても豊富で
妊娠した時だけに現れる
女性だけの特別な臓器だ。

臍帯を通して酸素と栄養を取り入れ、
二酸化炭素と老廃物を排出する。

双子の場合、胎児は
一つの胎盤を2人で共有し、
さらに双子同士も血管の繋がりを持つ。
その血管を吻合(フンゴウ)血管と呼ぶ。

その吻合血管のバランスが崩れると
一方が血液をもらう「受血児(レシピエント)」、
他方が血液を送る「供血児(ドナー)」となる。

そのことにより、
「受血児」は循環血液量が増加し、高血圧、
羊水過多となり、次第に心不全へ進み
胎児死亡に至る。

「供血児」は低血圧、羊水過少、
胎児発育不全、腎不全を引き起こし
最後はこちらも胎児死亡に至る。

それがユウトくんとエイトくんだった。


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3.手術で双子を繋ぐ血管を遮断

10%の確率。
それが自分の赤ちゃんに起きている。
「まさか…」
何度も自分の中で繰り返す言葉。

流産や早産をきたしやすく
何も処置をしなければ
赤ちゃんの死亡率が高いなど
様々な問題があると聞かされる。


もう、初めから障がいを
受け入れざるを得なかった。

手術は2種類あるうち、
血流の不均衡の原因である吻合血管を
レーザー凝固術で遮断し、
多い羊水を抜く手術が施された。

術後は自然に穴が塞がるはずだった。
だが、気付かぬうちにすこしずつ、
羊水が漏れているようだった。

残念な事に検査時のタイミングでは
その漏れは確認できなかったのだ。

結局、その漏れの原因は
穴が塞ぎきらずにいたのか、
子宮が大きくなるにつれ
開いてしまったのか、
どちらとも断定が出来なかった…。

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術後2ヶ月入院、
その後自宅療養し
4〜5日間隔で通院を続けた。

そんな中、28週目、
出血で再入院、管理入院がはじまる。
その後、発熱。

お腹の2人の赤ちゃんは
限界を超え悲鳴を上げる。

29週、緊急帝王切開で出産。
すぐに2人とも保育器に入った。

そして、その3日後…

弟のエイトくんは
やっと会えた
ママに看取られて
静かに天国に旅立った。

胎児の時から
兄のユウトくんを助ける為、
ドナーとなり血液を届ける役割を
命をかけて果たした
弟エイトくんだった。

短い一生だったと
思われるかもしれないが、
ママに会え、触れられた3日間は
エイトくんにとってかけがえのない
時間になっただろう。


4.喪失感から抜けられない

あれから5年経つ。
「喪失感からなかなか抜けられない。
あまり考えない様にしている。」

ママは当時の様子をこう語る。
「よくわからないまま、
突然帝王切開になった。
弟が亡くなり、
兄の優斗は生後3日目から
経過が悪く、生き残ったもう1人の赤ちゃんまでも
亡くなってしまうのではないかと
不安と恐怖の狭間で
現実が飲み込めない、
悪い夢をみている状態だった…」と話す。

現在、命を取りとめた
兄・ユウトくんは
脳性麻痺と出血後水頭症で
手足の麻痺が残る。

不自由さはあるだろう。
だが、どんな時もいつも笑って、
笑顔をみせてくれる優しい男の子だ。
ママに弟のエイトくんの分の笑顔も一緒に
届けてくれているのだ。

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5.OTの私ができること

リハをするときに
荷物を置かせてもらう場所から
ちょっと顔を見上げると
笑顔のユウトくんの写真と
エイトくんの小さな位牌がある。
弟がいつもそばにいると感じる。

今、ママは新しい命を宿っている。
「優斗にはまだ伏せて欲しい」
と頼まれた。この先どうなるか、
まだわからない不安が胸中に残るからだ。

その為、リハの中では
ママの代わりに沢山抱っこをして
体を一杯一杯動かした後、
麻痺で握った左手を自然に
使う遊びを多く入れている。

『次は左手でしょ』と
自分の右手で麻痺した左手をこじ開け、
ものを掴む準備をするユウトくんを
ママと私が見守る。

ひらひら舞う羽を左手で掴めたとき、
ママはそばから
「お〜、優斗、上手だね、すごいね!」
とすぐに声がけしてくれる。
少し自慢げな彼の表情が愛らしい。

リハ終了後、
ママとおしゃべりをちょっとする。
「パパに ”本当にお腹の
赤ちゃんの病院いかなくていいの?!”
って心配して言われるんですよ。
5年前の、あの入退院を繰り返した時と
今を比べて驚いているんです」と笑って話す。

そんなお話をするのが
ワタシは好きだ。

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6.ママから優斗へ


「優斗」は優しい子に育つ様に
「瑛斗」は純粋で真っ直ぐに育つ様に
そう願って名前をつけた。

毎月、月命日にお墓参りに行く。
兄(優斗)には
「2人分しっかりと生きていく事」を、
弟(瑛斗)には
「兄をずっと見守って貰えるように」
と、手を合わせるママがいる。

優斗へ

ママは
明るく笑顔の多い子に
成長してくれた優斗を見ると
幸せを感じます。

これからも明るく
楽しく生きて行こうね。

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写真 福添 麻美

参考:国立成育医療センター
双胎間輸血症候群に対する 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術
(レーザー手術)の説明書




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みきてぃ
作業療法士(OT)は 実は子ども達のサポートも しているリハビリ職。 これらの記事が読んで頂いた方の 子育て・療育のヒントになればと思っています。 子ども達は今この瞬間が 生きてきた人生で一番成長している時。 記事を通してみなさんと 関わる事が出来たら嬉しいです✨