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《改稿版》はるきたりなば きみ とおからじ Episode 01-02

佐久間イヌネコ病院・伊達組


「ハルちゃんがお客さん連れてくるってさ!」
「運がいいですね、昨日A5ランクの肉が届いたばかりです」
「じゃあご飯は美味しい大粒のアレにすっかね」
確かこないだは力士の方々をお連れしたんでしたね。雲母の前科は今回だけではないらしい。だがこの郊外の伊達の平屋に客人を連れてきたことはなかった。余程大事か、古い知り合いなのだろう、設楽は牛肉の筋膜を丁寧に取り除き、ステーキの準備を進める。伊達のお勧めの限定白米はふっくら大粒で味わい深く、肉に合う逸品。ついでに水菜とレタス、クレソンでサラダ。あとは菜園で取れたジャガイモとタマネギ、牛肉の切り出しで肉じゃが。味濃い方が白米に合います、フードファイター(?)設楽が力説する。
雲母からの連絡があって小一時間後、車のエンジン音が響き、家の駐車場で停まった。あハルち帰ってきたんじゃね?居間のテーブルをセッティングしていた伊達は、荷物があったら大変、と玄関に出迎えに。ただいま戻りました、雲母の声の後、伊達の細い悲鳴が家中に響き渡った。
「うひゃああああ、ナ、ナイスチューミーチュウううう???」
そこには180超えの、シンプルなフーディトレーナーにダメージジーンズ、襟足が括られた黒髪に褐色の肌とのコントラストが美しすぎて目の毒かもな青年と、白Tシャツとジーンズにタイトなシングルライダースを纏った精悍なサムライガイが、アイボリースーツの雲母に促され門から入ってきたのだった。雲母さんイタリアンマフィアみ強いな。様子見に来た設楽がぽつりと呟いた。
元後見人である白川弁護士のおかげでキングスイングリッシュが堪能な雲母、高校時代に留学経験のある伊達は南部訛りのネイティヴで話せる。ただ設楽はそんなに英語は得意ではない。何だかアーミーマー、ユーヤーユー、がさっきから頭の中を駆け巡っている。
「ウチにようこそ!えっとね、俺は伊達雅宗。で、あなたたちと一緒だったのが雲母ハルちゃんで、こっちが設楽泰司ね」
「俺はエディ。で、こっちがアッシュだ」
エディは英語で名乗り伊達と握手を交わすと、手土産の赤ワインを渡しながら日本語で言う。
「俺は日本語が喋るが、こっちのアッシュは喋れねぇから」
「オケエオケエ!ウチの設楽も英語はそんな得意じゃないっていうからさ、両方交代で訳してこっか!」
「ん?お前、その目オッドアイか!」
「すごい、初見でわかるってエディさんが初めてかも!」
すっごい微妙なイロチなんよねほら。その双眸を間近で見ようとエディは小柄な伊達に目線を合わせようと近づいた。
「おい、サムライ。シダラが睨んでるぞ」
「チューすんのかと思いました」
どこからか設楽の呟き。と思ったら真隣に御意。おま今の今までワイン仕舞いに行ってたんじゃ?瞬間移動か。超のつく分身のやつか。
その時、部屋の中を見回していたアッシュの視線が、伊達たち三人を興味深そうに捉えた。
「へぇ、アンタらルームシェアしてんのか」
「あー、そうねえ、ていうかその…」
「お前ら三人付き合ってるだろ?」
エディの真正面からの豪速球に伊達が煎茶を吹き出した。あーあ伊達さん大丈夫ですか、設楽がキッチンクロスを手に手早く掃除するのを見て、I figured、エディが頷く。なんかリアルサムライみ強いな。
「サムライ。アンタ、デリカシーとかいうのがまったくねぇな」
アッシュは満足げなエディを横目に、伊達と設楽、設楽と雲母を交互に指す。設楽に向かって「Bingo?」的なアイコンタクトを投げかける。設楽はにこやかに(無表情だけど)伊達の手を取ってアッシュに答えた。
「オレ×殿。そんで殿×雲母さん。オケ?」
「へぇ、アンタら洒落てんな」
そう軽い口調で笑いながらアッシュは、部屋に張り巡らされている監視カメラが取り外されていることに安堵を覚える。
側で一部始終を見ていた雲母はあまりのアレにツッコめず、笑いを堪え過ぎて畳に突っ伏していた。

*********

「ワォ!コタツじゃねぇか」
「エディ、よく知ってんねコレ?」
「日本のドラマでな。実物見るのは初めてだ」
「そりゃ是非入ってもらわないと!ささ座って座って」
「最高だな」
上品な色合いの重厚な家具調コタツは、しっかりした造りといい天然木を使った天板の豪華さといい、かなり名のあるコタツ様と思われる。しっとりふわふわ重めのコタツ布団がまた肌触り最高。かなり大きめの買っといてよかったです、大の男5人でも余裕のスペースに、雲母はちょっと得意げだ。
「二人ともお箸大丈夫なんね!素晴らしい。あでも料理が、全然家庭料理なんだけどもね…」
かえって地元っぽくていいかね、伊達と雲母が料理を運んできた。食べやすく切り分けられたステーキ、肉じゃが、サラダ、あと香の物。A5ランクの肉あってよかったですね、設楽が炊き立ての白米を有田焼のご飯茶碗にふわりとよそった。
「豪華だな」
「お二人とも、お箸で大丈夫でしたか?」
「俺もアッシュも大丈夫だ」
「難しくなかった?誰かに教えてもらったん?」
「箸の持ち方は友達に教えてもらったんだ」
「さ、温かいうちに頂こ、いっぱい食べてねえ」
「いただきます」
エディは日本のドラマで見た食事前の感謝の言葉を言ってから、テーブルに並ぶ料理に手をつける。アッシュもエディを真似て、両手を合わせてから食べ始める。初めて日本の家庭料理を食べる二人は箸が止まらない。
「日本の家庭料理は最高だな」
「お前らが良かったらレシピ教えてくれ。作ってるところも見たい」
「いいよお。えっと、エディはどれが気に入ったん?」
「どれも絶品だ。この漬物は自家製なのか?」
「何年もの?忘れちゃったけどさ糠床があるんよ〜」
「トノはマメだな」
ガタイのいい輩はやっぱり気持ちいいくらいに食らってくれる。エディもアッシュもびっくりするくらいに箸さばきが良く、しばらく見惚れていた雲母ははたと気づいてしまった。大変です既にお料理が底をつきそう。
「追加オーダー承ります、おかわりはいかが?他にもお出しできます」
「いいのか、それじゃ…天ぷらともつ煮込み」とエディは設楽に日本語で言った。
「御意。B級グルメはほぼ何でも作れます」
アッシュは聞きなれない単語に首を傾げると、隣に座るエディに振り返った。
「As you wish……」
エディはアッシュに通訳しながら、時代劇で見た殿様と家臣の関係も教えてやる。
「へぇ。ダテはトノで、シダラはカシンってヤツか」
今度はアッシュの言葉をエディが日本語で通訳してやる。あまり英語が得意ではない設楽には、エディや雲母、伊達が通訳。アッシュにも然り。この時以降、伊達は二人からトノと呼ばれる様になったのだ。
「オレは小姓に近いかと」(ん何が小姓かあ!伊達のハイキックを華麗にスルー)
台所に向かった設楽、そして酒を手に長っ尻体勢で呑む準備を始めた伊達。お土産に頂いたワインはもう少し寝かせてから頂こうねえ、そう言いながら封を切ったのは近隣の限定地酒。日本語表記なはずだが、手にしたエディの目が光る。酒好きには特殊なセンサーでも備わっているんだろうか。
「これ、入手困難の幻の酒じゃねぇか!」
「さすがエディ!よく知ってんね〜」
「俺は日本のドラマや映画だけじゃねぇ。日本文化そのものを愛してるんだ」
誇らしげにエディは口端を引き上げる。
雲母はアッシュに酌をしつつ、お客様が日本の珍しいものを楽しめるようにと、伊達の家にいろいろある骨董品、鮭を咥えた熊、謎の石の輪切りや綺麗な扇子等を並べ、ついでに自分のお宝コレクション(ピーーな動画ではない)を手におもてなしをしている(つもり)。
ご注文のB級グルメです、これ旨いですから。台所から料理を手に戻った設楽は取り皿を並べながら伊達のぐい呑みを奪い、日本酒を一気呑み。そこではたまた雲母は気づいてしまった。大変です、ついにお二人をお送りできる「足」が全滅に。なにやらエディと楽しそうに話をしていた伊達は、上機嫌で二人に提案した。
「二人とも、よかったらここ泊まってって?酒なら沢山あるんよ!」
「トノ、お前って奴は…なんて太っ腹なんだ」
エディはテーブルに肘を付いて目頭を押さえる。初対面にも関わらず快く家に招き入れ、心づくしの料理でもてなしてくれている。その上で更に泊まっていけと言われ、親切で優しい日本人の気遣いに胸を打たれる。
「アッシュ、日本人は優しくて親切だって噂はホントだったんだな」
「日本人全員が、そうとは限らねぇぜ」
「いや、俺はそうだと思いたいね」
「言ってろよ。で、どうすんだよ?」
「お前はいいのかよ?」
「アンタが決めろよ。オレはオマケだからな」
ほら、待ってんぞ、とアッシュはトノに視線を遣る。
「俺は是非とも泊まりたいが…明日お前たちも仕事があるだろう?」
「あーだいじょぶ。年末前のちょっとした連休なんよ」
「おぉ、そうなのか!」
「お部屋ご用意しましょう、あとお風呂の広いバスタブ、是非入ってみませんか?」
「マジか!日本の風呂の入り方は知ってるぞ」
「ハル、案内してくれ」
「おいおい、アッシュ。日本は年長者から入るんだぞ」
「ジジイには一番風呂は毒らしいぜ。だから、オレが先に入ってやるよ」
エディとアッシュは、互いに中指を立てる。
「お風呂出たら二次会やろう二次会、その頃にはワインも落ち着いてるだろうし」
「お前らはいつ風呂に入るんだ?」
「オレらは三人纏めて入るんで問題ないです」
「って設楽くんが。ンフ。時短ですよ時短♡。あ、設楽くんお風呂の用意をお願いします、アッシュくん少し待ってて下さいね」
エディに温かいほうじ茶を出し、いったん台所に戻った伊達は雲母に小さな声で話しかけた。
「ハルちゃん、よかったね…家中の監視カメラ全回収しといて」
「メンテという虫の知らせは神の知らせ、ですね。人間鑑賞という点では少々物足りないですけど…」
盗撮なんか出来なくても最高の体験が出来てるよん、伊達は雲母の頬に軽くキスをした。
二次会に備えての宴会の準備が進む中、食後のほうじ茶に合わせて出されたのは小振りの焼きりんご。シナモンとラム酒に、甘いりんごの香りがふわりと漂う。
「ここにお連れする車中でアッシュくんがりんご飴の話をされていたので、伊達さんにりんごのお菓子をお願いしたんです」   
「トノはスイーツまで作れるのか。店が開けるぞ!」
「美味しく食べてもらえたら嬉しいん。あ、そういやハルちゃん、浅草で何買ったん?」
「!!!忘れてました僕としたことが。いいものを見つけたんですよすごく野生的で男らしくて…」
雲母が台所に置いたままだった買い物類の中の、浅草みやげと書かれた手提げ袋。嬉しそうに袋を手に居間に戻ってきた雲母。中から出てきたのは赤や白の数枚の布。あそれ知ってるかもしれない多分アレ、察する設楽。
「えなに設楽これ知ってるん?ハルちゃんこれは?」
「…後で確認したほうがいいのでは」
「せっかくエディさん達がいらしてくださってるんですから、是非日本の伝統をお伝えしたくて」
「あ(これ、フンド…?)」
布を広げかけた伊達がようやく何かを察し、手元を珍しげに覗き込むエディに、何か思いついたように満面の笑みを浮かべる。
「ねぇねぇ、エディとアッシュくんてその……」
「伊達さんあまり突っ込んだ話だとお困りなんじゃ」
「え設楽お前ヒアリングできちゃってるん?」
「俺とアイツは、ただの友達だ。お前らの期待に添えなくてすまんな」
「アッシュっていたりするのかなあ?コイビト、みたいの」
「アイツを手懐けられる奴は…おっと、俺が言えるのはここまでだ」
「えー、トップシークレットってやつう?」
「そういや、アイツいつまで風呂に入ってるんだ。ちょっと様子見に行ってくる」






※「Memento mori side」の台詞Heidi執筆




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