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『学習する組織』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(14)第10章 p280~

第10章は、3つ目のコア・ディシプリンである「共有ビジョン」である。

「共有ビジョン」とは

 「共有ビジョン」とは多くの人が心から打ち込めるビジョンである。心から打ち込める状態のことを「コミットメント」とセンゲは呼んでいる。もし、企業でそれを作れれば、社員は「自分たちの会社」という感覚をもち、苦労も厭わなくなる。
 ひとびとは長期的な課題よりも目の前の課題へと簡単に意識を奪われてしまうが、「共有ビジョン」が長期的な視点でしか達成できないものであるときには、ひとびとに長期的な視点を意識させたまま物事に取り組むようにさせる。
 このときビジョンの表現は肯定的な表現にしておくべきである。否定的な表現のビジョン(例:核兵器を無くす)は人々を何かから回避する行動へと向かわせやすく、それに従わない人々を「無関心」とラベリングし共有から遠ざけ、脅威の感覚が薄れるとすぐに求心力を失ってしまう。

「共有ビジョン」を築くディシプリン

 基本は「個人ビジョン」を持たせることである。このため、自己マスタリーのディシプリンも同時に進めなければならない(自己マスタリーについてはこちらのNoteを参照)。その上で、個人ビジョンをお互いに語らせ、一つの全体像へと収束させていく。

 「共有ビジョン」の構築における企業の典型的な失敗例はとしては、まず作りっぱなしの一回限りの取り組みで終わることである。「共有ビジョン」作りのためには絶えず共有の努力を続けなければならない

 次に、皆の個人のビジョンに基づいて作らないことで失敗する。経営者個人のビジョンからスタートしてもいいが、個々の社員のビジョンと相互作用させて統合していかねばならない

 そして追従(コンプライアンス)と勘違いしてしまうことで失敗する。追従する人は、自分が何をすればいいかよく分かっていて先を見越して行動もする。そのため追従は賞賛されるが、コミットメントできているとはいえない。
 コミットメントしている人は必要に応じて、どんな「法(新たな行動基準ともいえる)」や「構造」をも編み出す。一方、追従する人(コミットメントまで至っていない人)は「法の精神」内でできることをする。要するに追従する人はルール内で最大の効果をあげるゲーム的な行動をすることには長けているが、それを超える力がないため最終的には組織内のルールや文化、システム思考でいう「構造」に囚われてしまう。
 コミットメントを生み出すためには、自分自身がまずビジョンにコミットした行動(参画)を見せ、個人ビジョンを正直に説明し、相手に選択させる(意識を高めていくための時間と安全な場を用意する)ことが必要である

共有ビジョンとシステム思考

 「共有ビジョン」を組織の中に築き上げていくとき、システム原型に絡め取られるというのがシステム思考との関係性となっている。以下のようなパターンでそれが生じるとされる。

 ・目指す個人ビジョンの実現の難しさ故に、挑戦してうまくいかず落胆する気持ちが「共有ビジョン」づくりを邪魔して「成長の限界」のシステム原型を生みだしてしまう。

 ・個人ビジョンのすり合わせが容易な人々だけ集まって(派閥だったり、経営陣がわざわざそのようなチームを作ることがある)、組織全体として対立状態が生じて「共有ビジョン」づくりの邪魔となり「成長の限界」のシステム原型を生みだしてしまう。

 ・「共有ビジョン」づくりには時間がかかる。そのために「共有ビジョン」のことを検討する時間と集中力が確保できずに、個々人の気持ちが離れてしまうことで「成長の限界」のシステム原型を生みだしてしまう。

 ・「共有ビジョン」づくりには時間がかかるため、しびれを切らして心からの同意ではなく「布教」に走ってしまい、それによって多くの人々の気持ちの警戒心を膨らませ(もしくは追従にとどまり)、「成長の限界」のシステム原型を生み出してしまう。

 いずれにせよ、システム思考を学んで上記のような「成長の限界」の発生に気づくこと(特に「共有ビジョン」をつくろうとする自身の行為が問題を生み出していること)が、それを抜け出し「共有ビジョン」に辿り着くための対策となるということである。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎と「共有ビジョン」

 「個人ビジョン」をまず持たせることから始まり、それを擦り合わせて「共有ビジョン」へと持っていくということについては、まさにレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドがそのままそれを実現できる。

 一つの問題としては、メソッドでは最大8人ぐらいのグループまでを対象としているため、10人を超える人数となったときに、全員がコミットできる「共有ビジョン」をどのように作り上げるか、ということがある。これについては、メソッドのしっかりとした原理原則を踏まえたうえでのプログラム開発とファシリテーション手法開発をしていかねばならないだろう。

 もう一つは、「共有ビジョン」へのコミットメントをどのように確実に打ち立てるかである。特に、見た目にはなかなか判別しにくい追従(コンプライアンス)とコミットメントの差を意識しながら、前者に気持ちを留まらせないファシリテーションが必要となる。必要に応じて「法」や「構造」を変えることも厭わない状態であることを確証するような追加の問いやワークもできるようになっておく必要があるだろう。
 そのための具体的な方法として、「共有ビジョン」を作るときの障害になる出来事をプレイさせる(AT6)ことが考えられる。そのプレイ経験から、さまざまな「成長の限界」を超えるための「シンプルな行動原則(SGP)」を抽出するということだ。そこまで目指せば“「共有ビジョン」構築のためのリアルタイム・ストラテジー”というプログラム(およびファシリテーション技術)が必要になるということになる。

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