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改めまして、双極性障害になりました(4)〜恥ずかしい私のために芍薬を買う〜

2ヶ月ぶりぐらいに電車に乗った。
障害年金という賞金を獲得しに、年金事務所というフリーなスタイルのダンジョンへ。

年金相談担当(MC)のお姉さんから超絶技巧の早口で次々とかまされる説明(ライム)に付いていくのが必死であったが、真面目に下調べをたくさんして既に必要書類(リリック)は完璧に揃えてきてたので何とか1stステージは攻略。

隣のブースでは完全にマジ喧嘩している。
良く聞かなくても勝手に耳に入ってきてしまうのだが、どうやら私と同じ病気で障害年金を申請しようとしている人のようだ。

申請者(チャレンジャー)のおじさんが支離滅裂なことを怒鳴り散らしている。
障害名の「双極性障害」を認められないでいる。

「俺はそんなのになったことは一度もない」と言う。

でもおじさん担当のMCは「お医者さんからの診断書にはそう書かれてますけど」と返す。

チャレンジャーは自分の病気も認められないけど年金だけ獲りに来ようとしている。その上言われた書類を準備してきてない自分が悪いのに「時間がもったいない」と逆ギレして押し通そうとしている。
対するおじ担MCも暖簾に腕押しの応酬にもうやってられんという体で対応が雑になり始めている。

私担のMCおねえさんは早口だけど丁寧で親切だった。
しかしそれは私がコツコツ書類を作ってきたからだし、横柄な態度を取らないよう気をつけているからだ。
MCバトルにも礼儀あり。

でも、本来は隣のおじさんのような人のための年金だよな……。
ほんの数十分隣で話を盗み聞きしただけでも、このおじさんは社会復帰がすぐには難しそうなことがわかる。

私は頑張れば障害年金なんてもらわなくても……。
じゃあ私は頑張っていないのか?
なんのために今ここにいるのか?
私が障害年金をもらおうとすることはずるいのか?

隣に怒鳴っている人がいるだけで、私が怒鳴られているわけでもないのに不毛な思考に陥っていく。
その時点で私が障害年金を申請するだけの資格はあるのである。審査が通るかは別として。

でも何より嫌だったのは

このおじさん、1型だな。

と無意識で差別をしていた私である。

双極性障害には1型と2型がある。私は2型。
1型は躁状態が激しく、社会的な問題を起こしやすい。暴力、金銭、男女トラブルなどなど。家族や周りの人が見かねて強制入院になることも多いのがこの型。明らかに様子がおかしいとわかるので病気も発見しやすい。
2型はどちらかと言えば鬱期が長いタイプ。躁の波がそこまで激しくないのでパッと見はわからないことが多い。そのため発見が遅れがちで重症化してから双極性と判明することが多い。
※諸説あります

どちらが良い悪い、軽い重いとかではない。自殺率はどちらも極めて高い。
自殺リスクはうつ病患者だと健康な人の3倍高い。
双極性障害はうつ病患者の10倍(らしい)。
つまり単純に考えると双極性障害者は健康な人の30倍自殺しやすい。
大事なのは1だろうと2だろうと元々の性格がひねくれてるとか乱暴だとかそういうことではないこと。病気がそうさせているのだということ。
双極性障害は脳の機能のバグである。

あのおじさんも私も同じなのだ。
同じだけ苦しんでいる。

でもどこかで私は「1型とは一緒にしないで欲しい」と思っていたのだ。

それがたまらなく嫌だった。
恥ずかしい。
情けない。
申し訳ない。
全ての1型の患者さんに。

せっかく1stステージをクリア(必要書類提出)したのに打ちひしがれたままダンジョンを後にした。

着いた頃は電車で久しぶりの都会に出てきて、テイクアウト系のお店も充実してるのでご褒美に何か美味しいものを買って帰ろうと思っていたのだけど、もはや全く食指が動かなくなってしまった。

美味しそうなスイーツやパン、お惣菜の匂いはするけれど、どれも灰色に見えるし、それを食べて喜んでいる自分が想像できない。
こうなるともうどうにもならないのでさっさと帰って寝よう。
と思ったところで花屋が開いているのを目にした。

一束500円セールをやっている。
バラ、カーネーション、お供え用セット……中でも目を引いたのが大きな芍薬だった。
「今が旬です。咲く時に良い香りがします」
とポップに書いてある。
鬱の時は淡い色だとうまく認識できないので、ガツンとデカくて濃い色の芍薬は今日の私にはとても良い気がした。
大きな花が咲き誇ったのと、ふっくらした蕾が二つ付いている束を一つ買って帰った。

家は散らかっていて飾るとこがあまりなく、トイレに飾ったらとてもしっくりきた。
風水は詳しくないけどトイレに切り花は何かが良いらしいしな。(追求するとキリがなさそうなのでしない)
更に汚いトイレに花を置くのはかわいそうなので念入りにトイレ掃除をした。
ここぞと言う時にD-BROSの花瓶は持っているとマジ最高。収納に1ミリぐらいしか場所取らない。なのに可愛い。
控えめだけど綺麗な紫色の模様が大きなフクシア色の芍薬を綺麗に見せてくれる。トイレもピカピカ。

後で調べた芍薬の花言葉の中に「恥じらい」というのがあった。
羞恥心のシンボル! 薬にもなるしなんて良い花なんでしょう。

「恥」という感情を忘れてしまったら人間として終わりだと、私の憧れの人が言ってたのを思い出す。
あの時、私はおじさんを差別してしまった。それは本当に恥ずべきことだと思う。
しかし恥ずべきことだと気付いた私を、忘れてしまわないように。
芍薬を買って帰ったのは偶然ではなかったな。


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