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エドマール・カスタネーダが弾くハープは、ハープを遥かに超えていた

アイリッシュハープの演奏とレッスンをしているKIKIです。

先日4年ぶりに来日した、ニューヨークで活躍するコロンビア出身のハープ奏者、エドマール・カスタネーダを聴きに、Blue Note Tokyoへ行って参りました。
彼のマジックのような演奏にはいつも圧倒されていて、来日の折には足を運んでいます。
エドマールは毎回違う共演者を連れて来てくれるので、どんな楽器との対話になるのかがいつも楽しみです。今回はトロンボーン、ドラムとのトリオでの来日公演でした。

Edmar Castañeda Trio at Blue Note Tokyo/2023年8月5日、6日

エドマールがライブで弾いているハープのことをお話しすると、従来型のハープとは少し違うものになります。
見た目はアイリッシュハープ(ケルティックハープ)のような、本体の上部に半音操作のためのレバーが付くタイプのものですが、音の方はケルト的なサウンドではなく、ラテン系の明るく、軽い響きがする南米のアルパ(=ラテンハープ)です。そして、ハープ本体の中にはピックアップマイクが内蔵されていますので、強いて楽器の名称を付けるなら、「エレクトリックアコースティック(エレアコ)・レバーアルパ」という感じでしょうか。
エドマールはそのハープの前に立って、踊るようにエネルギッシュに、そして時に繊細に弾くのでした。また、ジャズのテンションコードにある、臨時記号を弾くためのレバー操作(レバーの上げ下げ)を激しく行なっていて、これは相当に至難の業なのですが、彼はいとも自然に、難なくこなしているのでした。

こちらはツアー本編の前日にミニライブをした「Blue Note Place(恵比寿)」にてのセッティング。
立奏できるよう160〜170センチぐらいの高さになっているハープです。

聞くところによりますと、この楽器は、フランスのハープメーカーであるカマック社が、彼のパフォーマンスが最大限に引き出されるように、特別に製作したということです。通常のカマック社のラインナップに、このようなハープは登場していませんので、非売品か特注品になるのではないかと思います。
でも、エドマールのような演奏は誰にも真似ができないので、彼にしか必要とされないモデルではないかと思うのです。

エドマールの音楽のジャンルとしては、(彼の場合はあまり領域に拘りたくないですが)こちらも強いて言えば、「コロンビアの伝統音楽のテイストが加わっているジャズ」という、現代ジャズのカテゴリーになるかと思います。即興はもちろんのこと、ラテンのリズムに変拍子が加わっていたり、本来は爪で軽快に弾くアルパらしいフレーズも踏んだんに、オリジナイティー溢れる音楽を展開しています。

エドマールの凄さは、演奏が始まると、この楽器がハープであることを聴衆が忘れてしまうところにあります。美しいメロディーラインを奏でていたかと思うと、ベースラインが際立って来て、あたかもベーシストがそこにいるかのようです。
アルパ特有の爪弾きでギター奏法も入っていますし、パーカッションのように弦やハープのボディを叩いて、間合いを息づかいのように入れてみたり、一人で何役もできてしまうのです。
そのグルーヴ感は、日本人の私などが決して持ち合わせない独特な感性があって、聴くだけでなく、目の前で繰り広げられるパフォーマンスを楽しめるという意味でも、秀逸なのであります。
こちらの動画では、その「一人トリオ」のプレイがご覧頂けます。

私が初めてエドマールを知ったのは、2015年、アメリカのニュージャージーで開かれたフォークハープフェスティバルでした。たくさんの有名ハーピストによるワークショップの中にエドマールも講師として参加していたのでした。その最終日に講師陣のコンサートがあって、そこで初めて彼のソロパフォーマンスを目にしたのです。
その時の率直な感想は、「ハープってこんなこともできるの?!」でした。ハープという楽器のポテンシャルをここまで高められる人を目の前にして、驚きを隠せませんでした。
そしてさらなる感想は、「ハープでこんなことやってもいいんだ!」でした。ハープを揺らしてヴィブラートをかける、といった発想にも唸るものがありましたし、独自の奏法から作り出される音のバリエーションが豊かなのです。それを生き生きと、全身で表現しながら奏でているエドマールの姿に、誰もが笑顔になれるのでした。

アメリカでのエドマールのワークショップでは、逆にそうした超絶技巧ではなく、ラテンのリズムの基本や、ベースライン奏法を習いました。ラテン音楽で欠かせないJoropo(ホローポ)というコロンビア伝統のダンスのリズム、ボサノバやサルサなど、どれも私自身のハープ演奏に直結する領域ではありませんが、経験のないリズムをハープに乗せてみるのはチャレンジであり、新鮮な発見がありました。そして、エドマールの底抜けに明るく、乗せ上手な授業は大変楽しかったです。

今回のBlue Note Tokyo公演の前日に、恵比寿のBlue Note Placeという系列店のライブレストランでも、短い時間でしたが、エドマールのソロライブがありました。ここではCDを買うことができて、終演後にバーカウンターで談笑するエドマールを見つけてサインを頂いて、少しばかりお話しさせて頂けたのは、この夏一番の思い出です。

毎回エドマールのライブに行くと、素直に「すごいなぁ」と思います。誰も通っていない道を開拓していく姿に、とても励まされます。自分と同じ「ハープ」という楽器を弾いているわけですが、参考にならないくらい違う次元で「楽器」を操っていることに脱帽します。彼のテクニックを学び取ることはできそうにありませんが、音楽表現に対するパッションは学びたいと思いながら、いつも出かけています。

エドマールはこれまでに、いろいろなジャズプレーヤーと共演しています。2017年にはピアニストの上原ひろみとのデュオプロジェクトでワールドツアーをして、日本公演も大盛況でした。
ピアノとハープは本来同業者のような楽器同士で、アンサンブル的にはやりずらいはずなのですが、この二人が奏でる音の会話には、相手を思いやったり尊重したりが垣間見えて、心底楽しく聴けるのでした。きっと彼らにしてみますと、「たまたま表現しているのがハープでありピアノであり、ただそれだけのこと。『楽器』というツールを使って会話をして歌うのに、何の制限も常識もいらないでしょ?」というような型破りさを感じるのでした。

最後に、是非その二人の音楽の会話を聴いて頂きたく、モントリオールジャズフェスティバルでの上原ひろみとエドマール・カスタネーダの動画をご紹介して、この記事を閉じたいと思います。
お読み頂きありがとうございました。

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