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聞き書き甲子園卒業生にインタビュー!!(稲本さん・後編)

こんにちは、共存の森ネットワーク インターンの石垣です。
今回は、聞き書き甲子園6期生の稲本朱珠さんへのインタビューの後編をお届けします。

前編はこちら

稲本朱珠(いなもと すず)
京都府京都市出身。高校1年生の時に第6回聞き書き甲子園に参加し、兵庫県の炭焼きの名人を取材。同志社大学社会学部卒業後に、イベント企画、バックオフィス業務、広報、人事などの仕事を経験し、現在はrootsの相談員として、高校生や地域の人たちがやってみたいことにチャレンジできるようにサポートを行っている。


〇聞き書き甲子園に出会ったきっかけ

石垣:稲本さんが聞き書き甲子園を知って、参加しようと思ったきっかけは何でしたか?

稲本:中学3年生の時に読書感想文の表彰式があって、そこで作家の塩野米松先生が基調講演をしてくれた時でした。小学生の頃から文章を書くことに興味があって、作家になりたいと思っていたんです。でも、周りからそれではお金を稼げないって言われて、私にはできないと諦めていました。当時は、例えばライターのような書く仕事が作家の他にもたくさんあるって知らなかったんです。でも、塩野先生から「インタビューをまとめて文芸作品にして出版したら、ベストセラーになった」というお話を聞いて、「文章を書くって物語を書くだけじゃないんだ」って知ったんです。竹籠をつくっているおばあちゃんにインタビューした話を聞いて、(聞き書きを通して)話を聞いた相手と心を通わせられるし、聞いたことを書くことなら自分にもできるかもしれないって思ったのが、最初のきっかけでした。


〇稲本さんにとって聞き書き甲子園という体験

石垣:聞き書き甲子園は稲本さんにとって、どんな体験でしたか?

稲本:私にとって、初めて社会に出た経験でした。中高一貫校で、高校受験もしてなくて友達もほぼ一緒だったので、「このままだと視野が狭いままだ」と危機感を感じていました。高校生になったら聞き書き甲子園に絶対参加すると決めて、実際に参加することができて、私にとっては名人と名人の周りの人たちにとても良くしてもらえたというのが、すごく大きな経験でした。それまで私は、家族や親戚以外のそういう人のつながりを知らなかったので、つながりっていいなと思いました。

高校1年生で聞き書き甲子園に参加した後も、高校2年生と3年生で共存の森の活動(里地・里山・里海の保全や地域コミュニティの再生に向けた活動)にも参加させてもらいました。私のような若い人が行くとすごく喜んでくれて。そこに行って、話したり手伝ったりするだけなのにこんなに喜んでもらえるんだって思っていたけど、今大人になって、高校生が「こういうのやりたい!」って言ってくれたら、とても嬉しいです。当時はそんなことわからなかったですが、自分にできることがあればやりたいと思えたのはすごい大きな経験ですね。


〇名人との思い出

石垣:稲本さんは兵庫県の炭焼き名人に取材をしたということですが、今でも思い出に残っているエピソードなどはありますか?

稲本:名人はすごく聞き書き甲子園の意義を理解してくれていたと思うんです。私にとって、この機会がどうやったら学びの機会になるのかというのをすごく考えてくれていました。(インタビューの)初めに、「里山って何か知ってるか?」と聞かれたのですが、私は里山について全然知らなかった。それで、近くの大学で名人と知り合いの教授が講義している里山講座に通わせてもらって、木とか里山のことを教えてもらいました。作品を仕上げる時も、過去に名人を取材された新聞記者の方を紹介していただき、私の作品にその方が赤い字で直して返してくれました。私にとっては見ず知らずの人でしたが、「送ったらいいから」と名人が言ってくれて、すごく丁寧に見てもらいました。書く仕事をしたいと思っていたので、それもすごくいい学びになりましたね。

参加当時の稲本さんと名人


稲本:名人は、全然山のことを知らない高校生が急に取材に来たとき、話だけで終わってもいいことを、良い機会にできるように、と、ごく自然と、当たり前と思って、色んなことを段取りしてくれたと思うんです。当時の私は、見ず知らずの人にそんなふうにやってもらえると思っていなかったし、社会人になって「やっぱり、あれはすごかったな」と思うようになってきて。私も高校生がrootsに来てくれた時には、赤の他人かもしれないけど、どうしたらその高校生にとっていい経験になるのか、学びになるのか、ということを名人のレベルで考えたいと思っています。

名人はもう亡くなってしまって、その時の話は聞けないんですけど、なにかしら名人にも良いことがあってやってくれたのではないかなと思っています。だから私自身も、高校生のためにだけやるわけじゃなく、やっていて楽しかったり、自分にとっても新たな発見があったりとか、もちろんいいことはたくさんあるので、これからもこの活動を続けていきたいと思っています。


〇高校生にとって聞き書き甲子園とは

石垣:高校生にとって、聞き書き甲子園はどんな事業だと思いますか?

稲本:高校生までって、基本的には先生の言っていることや教科書に書いてあることが正しくて、それをテストされる。そんな高校生が、これが正しい、という答えのない世界で生きている人たちに会うわけじゃないですか。名人の言っていることってすごく理にかなっているけど、でも答えはないというか。一つのことに対して何十年も名人が考えたり、実際に実験して失敗したりして、(仕事が)今の形に確立されてきたという在り方が、私はとても本質的だと思っています。それを目の前で見られる、感性がすごく豊かな高校生という時期に実感値として得られることは、すごく意味のあることだと思います。

しかも、聞き書きという手法は、インタビューの録音を何回も聞くから、聞き洩らしや勘違いは基本的に起こらないと思っていて、なんでこの人はこういうことを言ったのかというのを考えないと作品を作れないから、人の話を理解するという練習にもなっていると思います

聞き書き甲子園20周年を記念して開催された「聞くと書くのあいだ展」
昨年の10月から11月にかけて京丹後市の「まちまち案内所」でも行われました


〇地域にとっての聞き書き甲子園とは

石垣:来年度の聞き書き甲子園では、京丹後市が協力市町村(地域の名人の推薦と高校生の聞き書き取材の受け入れに協力する地域)として聞き書き甲子園に関わると思うのですが、地域にとってはどんな影響があると思いますか?

稲本:その人自身が生きてきた時間とか、その人が感じたこととかって、誰かが聞かないと公になっていかないし、知られることがないと思うんです。それを(聞き書き甲子園の活動で)高校生が聞いて言葉にしてくれることで、地域の中で貯めていけるというか、その人がどんなこと思って、どんなことをやってきたかという、その人の生きざまを共有できるという意味で、地域にとってすごく良い形で次の世代につながっていくのではないかなと思います。

roots 1周年記念イベントでも「聞くと書くのあいだ展」が開催されました


名人との出会いで得たものが、現在の稲本さんのお仕事にも生かされているというお話を聞くことができて、名人の技術だけでなく、想いがこうやって次世代に受けつがれているんだなと気づかされました。

全6回に渡っての卒業生インタビュー企画はこれで終わりです。記事を読んでくださった皆様、インタビューに協力していただいた藤田さん、本間さん、稲本さん、本当にありがとうございました!

ありがとうございます。 列島ききがきノートの取材エリアは北海道から沖縄まで。聞きたい、伝えたい、残したいコトバはたくさんあります。各地での取材にかかる交通費、宿泊費などに使わせて頂きます。そして、またその足跡をnoteで書いていければ。