初雪姫と700人の小人たち
お初にお目に掛かります。マスオと申します。
生まれて間もなく網に掛かるという不遇に見舞われた私ですが今は普通に会社に通いながら子育てをしています。
3年前、我が子が生まれた日はめずらしく東京で雪が積もっており、私は身籠った妻に栄養をつけさせようと思って魚釣りに出掛けていました。
そんな日に誕生した我が子に私は「鱈(たら)」という名前を付けました。
3歳になる息子は「白雪姫」の絵本が大好きで、よく私に「どうしてこのおじちゃんたちは大人なのに小人なの?」と素朴な疑問を投げかけてくるのですが、「こっちが聞きたいわ…」とため息まじりにペアレンタルをコントロールする日々に追われています。
7人の子を持つ白雪姫ですが、その名の通りかなり白々しい人で、私が「ほんとはもっと子供いるんでしょ」と問い詰めても頑なにシラを切り通すのです。
剛を煮やした私は知り合いの魔女に借りた魔法の鏡に問いかけました。
「テクマクマヤコン テクマクマヤコン この世でいちばん子だくさんなのはだーれ?」
すると鎖に繋がれたオペレーターが現れ、応えました。
『だーれが つついた ルルルルル…』
「それは白雪姫ですね?」
『そうかも知れんし、そうでないかも知れん』
あくまでシラを切り通すオペレーターの様子に私の直感が働いた。「こいつはクロだな…」
私は急ぎ足で白雪の元へ向かった。魔法が解けないうちに彼女の正体を暴かなくてはいけない。
辺りが暗くなった頃、東京では史上稀にみるほどの初雪に見舞われ、私の脳裏に3年前の記憶がよぎった。
風が強まり吹雪の中自転車を走らせていると、どこからか焼き魚の匂いが漂ってきた。
無性にししゃもが食べたくなってきた私はGoogleマップを頼りに川へと向かった。くしくも3年前、700個もの卵を産卵したばかりの魚を釣り上げたあの川へ。
「やはり白雪の正体は…」疑念が確信になりかけたその時歴史は動いた。
ゴーン、ゴーンと0時を告げる鐘が鳴り響く。
突然、川の中から美しい女性が現れたが吹雪に視界を遮られて顔がよく見えない。だが腕に赤ん坊を抱えているのがかすかに見えた。
『いくら…』
そう言うなり彼女は私の胸へ赤ん坊を押し付け、私がそっと抱き上げると赤ん坊は猛吹雪にも関わらず無邪気に笑い声を上げる。それを見て私の顔もほころんだが、気づくと女性の姿はなかった。
いくら、とはどう言う意味だったのか。子を売ろうとでも思っていたのだろうか、いまだにその答えは分からないが彼女が白雪だったということは確信している。
私はその子(イクラと呼んでいる)を大事に抱きかかえ、その足で里へ向かった。700人の小人たちの待つ里へ———
解説
今日は東京で初雪(吹雪)の中、川の橋を何往復もしながらデリバリーの仕事をしていた。それをテーマに連想しながら書いてたらこんな風になってしまった。テクマクマヤコンは魔法使いサリーだとずっと勘違いしてたけどひみつのアッコちゃんだった。歳はとりたくないものじゃわい
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