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洋楽の歌詞が深くて楽しい。 Viva la Vida #1

洋楽の歌詞を読んでいて、英単語や構文の意味はわかるのに、その歌の意味や感情がサッパリわからない、ということは少なくありません。

たいていの場合、それは文化的な背景やその歌のベースとなる情報を知らないことが多いのですが、それを少し掘り下げることで歌詞の後ろの景色が見えてくることがあります。その瞬間、語学を学ぶことはその背景文化を学ぶことなんだなあ、と実感できてそれがまた楽しみでもあります。

そういう歌の一つとして印象深いのがColdplayの「Viva la Vida」です。この歌はグラミー賞も受賞し、欧米でチャート1位になるなど、世界的に大ヒットしました。日本でもTVコマーシャルにも使用されて、和訳や解釈も多く出ています。

多くの方がご存知の通り、この歌の歌詞はある国の王様の没落ストーリーです。Coldplay のボーカリスト、クリス・マーティンはこの歌について「特定の王をモデルとはしていない」とインタビューで答えていましたが、歴史的な事実や聖書の逸話をモチーフにしたと思われる歌詞がいくつも登場します。

なので、和訳というよりはその後ろにある様々な背景事情や私なりの解釈をお伝えしていこうと思います。すでにこの歌の意味を知っているかたも、そうでない方も興味深く読んでいただけると嬉しいです。

最初は王様の後悔?から始まります。

I used to rule the world
Seas would rise when I gave the word

最初の行で I used to (=かつて〜だった)とあるので、今はもう王でないことがわかります。Seas would rise (海が分かれるほど)when I gave the word(私が一言発したら)[The word]となっているので特定の言葉を表しています。

The wordとは何ぞや?

旧約聖書の出エジプト記、モーゼがユダヤ人を連れて逃げる際に、背後から追っ手が迫り、「海よ、割れろ!」の言葉で紅海が二つに割れる奇跡が起きて脱出したという伝説があります。ということで、(海だって割っちゃうかもしれないほど)大変な影響力を持っていた王だったんだな、とわかります。

Now in the morning, I sleep alone
Sweep the streets I used to own

場面は変わって朝、この王様は一人で寝ています。現在形で I sleep alone なので「毎日行なっているような習慣」という意味で、一人で寝ているのが今は当たり前になっているのが読み取れます。「今は」が文頭で強調されているので、昔は(王だったときは)おそらく取り巻きやお付きの者がいて一人ではなかったのかもしれません。

しかも、sweep (=掃除している)the streets でtheがあるので特定の道を、その特定の道は I used to own (=かつて自分が所有していた道)す。
かつて自分のものだった道を今は(箒か何かで)掃いている。王の凋落ぶりがうかがえます。

I used to roll the dice
Feel the fear in my enemy's eyes

かつては「サイコロを振っていた」とあるので、サイコロを振る人=周囲の人を自由にコントロールしていた人、つまり、世界は思いのままだった、というイメージが浮かびます。Feel は前の行のI used to の続きである、と解釈するなら、敵の目に恐怖の色が浮かんでいたのを(かつては)感じていた、とも読めます。敵が怖れるほどなので、文字通り怖い者なしの王だったようです。

Listen as the crowd would sing: "Now the old king is dead! Long live the king!”

動詞が現在形になったので、映画のようにシーンが切り替わり、今度は今の状況が描き出されます。今の住まいである塔の外から民衆の歌が聞こえてきます。「王は死んだ、王様万歳(王の世が永くあらんことを)!」

「民衆の歌」を調べてみると、19世紀フランス七月革命の時に「民衆の歌」が歌われていたとありました。このアルバムのジャケットがその時のシーンを描いた「民衆を率いる自由の女神」なので、作曲の時に参考にしたのかもしれません。

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"Now the old king is dead! Long live the king!”「王は死んだ、王様万歳(王の世が永くあらんことを)!」という文言は前国王の逝去発表とともに新国王に敬礼することによって王位の継承性を国民に宣言するために主に欧州で使用されるそうですが、一番最初に使われたのは15世紀フランス、シャルル7世の戴冠式だったようです。

シャルル7世といえばジャンヌ・ダルクの活躍で即位した王様なので、欧米では有名な王様ですね。確かあとで恩人のジャンヌ・ダルクを裏切って見殺しにしたんじゃなかったっけ。なんかこの王様も裏切られたっぽいです。

One minute I held the key
Next the walls were closed on me

個人的に英語の歌詞で時制や助動詞が変わった時はシーンや感情が変わる時だと思っています。One minute (=一瞬)I held the key (=鍵を持っていた)holdが過去形のheldになっているので、一瞬だけ鍵を持っていた、という意味になります。

この「鍵」はなんの鍵なのか気になりますが、サビの部分の歌詞でそれがなんだったのかうっすらわかる箇所がありました。それはまた後ほど。

でも(気がついたら)次の瞬間、wall(=壁)に囲まれてしまった。closed on は「忍び寄る」的なイメージなので、壁と自分の間が狭い、つまり革命か何かで王位を急に追われ、かなり狭い空間に閉じ込められたのかなと思います。

「ベルサイユのばら」はフランス革命を描いた有名なマンガですが、革命後に王妃マリー・アントワネットが閉じ込められたタンプルの塔を思い出しました。(確か単行本だと8巻とか9巻あたりです。ご興味ある方はどうぞ)


And I discovered that my castles stand
Upon pillars of salt and pillars of sand

そして「自分のcastles (=城)は塩の柱、砂の柱の上に建っていた、と discover(=発見した →気がついた)とあります。

砂の柱はなんとなくわからんでもないけど、塩の柱というのは???

と思って調べてみたらありましたありました。

「塩の柱」は旧約聖書、創世記です。神の怒りを買った都市が滅ぼされようとする時、信仰心の篤いロトだけは事前に天使から滅亡のことを知らされたので、家族を連れて脱出することにしました。逃げる途中で神様から「決して後ろを振り向いてはいけない」と言われたのに、ロトの妻は振り向いてしまい、塩の柱に変えられてしまいました。「Lot's Wife(ロトの妻)」という塩の柱が今でもイスラエルの死海の近くにあって、観光名所になっています。

「砂の柱」はマタイの福音書7章にありました。「賢者は岩の上に、愚か者は砂の上に家を築く」「雨が降り、洪水が押し寄せ、風が吹いて砂の家に打ち付けると倒れてしまう。そしてその倒れ方はひどいのである。」私が読んだ資料では、「長期的な視点で自分の人生の土台をどこに置くのかを考えなさい」という戒め的な解釈でした。

こういう逸話を組み合わせると、この王様は栄華を極めてはいたが、国の治世はあまりよろしくなかったようですね。ロトの妻みたいに人の言うことを聞かなかったとか、目先のことしか考えてなくて砂上の楼閣に気づかなかったとか。

そして革命かクーデター的な何かの事件で今は王位を剥奪され、今になってから自らの過ちを悔いているようです。

こういう聖書に出てくる逸話って(私の想像なのですが)毎週日曜日に教会に通って育ってきた欧米の皆さんにとってはフツーに常識というか、その名前を聞いただけで意味がわかるようなものなんだろうな、と思います。

背景事情がわかると、コマーシャルの歌にしか聞こえなかった曲が一気に宗教的・歴史的な色を帯びて荘厳な雰囲気に聞こえてきます。こういう、言葉の意味だけではなんのこっちゃサッパリ分からなかったものが急に映像として立ち上がってくる感じ、勉強する楽しみであり、豊かさを感じる瞬間でもあります。

クリス・マーティンは真面目に教会に行って、学校で歴史もちゃんと勉強してたんだろうな。王様になりきって歌ってますもん。

続いて歌われるサビの部分と2番の歌詞で王様の運命が明らかになっていきます。続きは次の記事で。

メロディーはこちらでどうぞ^^。


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