爆速王女が運転する車の助手席に座り、悟りの境地にいたる。
爆速王女というのは、私の元カノのことを指す。
私の過去記事に登場する元カノであるが、ご存じない方がほとんどであろうから、以下の記事をご紹介しておく。
大学生のころにお付き合いしていた元カノ。私は20代前半で、元カノは4歳年下。約4年お付き合いした。彼女の花のキャンパスライフの4年間は私に捧げられたとも言える。
彼女を一言でいえば、
「負けず嫌い」という表現はふさわしくない気がするが、これから紹介するエピソードでその真偽をたしかめてほしい。
…
元カノは車(軽自動車)を持っていた。しょっちゅう2人で北海道内をドライブした。1日で300キロ先にドライブすることもあった。
運転好きの彼女がほとんど運転し、私もたまに運転させてもらうものの、9割は彼女が運転した。
彼女は私の4歳下である。運転が大好きだった。
私はといえば、彼女よりも先に運転免許を取得し、すばらしい運転技術とはなんぞや、という考え方が確立されていたもので、助手席から丁寧に技術を教えて差し上げるのだ。
彼女は、いわゆる社長令嬢であった。いや、そりゃ三菱財閥の娘さんとか、阪急グループのご令嬢とか、そういうレベルではない。地元のとある企業の娘さん。
その出自に因果関係があるかはわからないが、
大の負けず嫌いの女性だった。
運転中もそう。
絶対に追い越されたくない女性だった。追い越されそうになったらスピードを上げる。なんなら一方通行を逆走したりすることもあった。注意力不足で一時停止を見逃すこともあった。
危ないじゃないですか。
さて、このような運転をする方の助手席に、みなさんがいたとしたら、果たしてどうするだろう?
指摘するでしょう。
危ないよって。だって事故ったらヤバい。一説では助手席の方が致死率が高いなんてデータもあるくらいだ。
わが身が大事なので、私だって指摘したよ。そりゃ指摘するでしょう。「危ないよ」って。ところが、この彼女は私の言うことに耳を貸さない。
「わかってる!」
と何度ブチ切れられたことか。
何度言っても直らない。
かといって、指摘すると怒られる。
助手席に乗っていると、ひやりとするシーンがままあった。私としては怖い。危ない運転をする車に乗るのは嫌だ。彼女のためを思えば何度も指摘するべきだが……。
私は指摘することをやめた。
争いは嫌だ。でも危ないときは危ない。
まだ死ぬには惜しい。
どうすればいいだろうか?
危ないシーンに遭遇しても、それを指摘することは不可能。でも、恐怖心は消えない。車に乗るのをやめればいいじゃないかという声がありそうだが、それでも一緒にいたいと思うのが恋人というものだろう。
どうすれば?
私は、文字通り「目を閉じる」ことにした。
運転中、2人で会話をしながら爆速で進む車。
目の前に迫り来る急カーブ。曲線が描く恐怖。ぎりぎりの黄色信号、北海道の広い道。楽しそうな私たちを乗せて、車はバビュンと進む。
心の中で「あ、あぶね」と思うたびに、
助手席の私は静かに目を閉じることにした。
毎回である。
目を閉じれば視覚情報は
シャットアウトされるから。
それはつまり、
死の恐怖を受け入れることであった。
結局、事故にあったこともないし、その彼女が事故を起こしたという話も一切聞かない。
爆速で進む車の中、きゃぴきゃぴとした会話をする私たち。「それでね、それでね!」と言いながら急カーブに差し掛かるたび、「うんうん」と言いながら、私はそっと目をつぶったものだ。
あれは悟りの境地だったと思う。
心頭滅却すれば、死もまた怖くない。
いや、怖かった。
◾️高速で動く車についての考察といえばこれ!
【stand.fm】明日は好きなものの話をしよう!
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