見出し画像

猫になったエジソン。

私がnoteを始めてからもうすぐ2年になる。

毎日書いてきたこの2年でさまざまな変化があったが、できるだけその変化をnoteに書いてきたつもりだし、その時々の心の機微みたいなものも書いてきたつもりである。

たとえば、勤めていた会社を辞めて友人と会社を作ったであるとか、妻との生活、妹との関係性だとか、まぁそんなこと。

もちろん「これは書けないな」と思うことも多々あった。noteにいる私以外の方も「書く・書かない」の線引きをしっかりしていることと思う。


もしも「これは書けないな」というエピソードたちを遠慮なく書くことができたなら、創作大賞のどれかの部門を受賞するのではないか、というエピソードがいくつかある。書き方次第だけど。

それくらい非日常的で、ドラマティックで、神経と精神がすり減り、でも笑いがあふれていて、最後には涙がちょちょぎれちゃうような、そういう2年間を送ってきた。

ちなみに私の家族はこのnoteを読んでくれているし、近くにいる友人もこれを読んでくれているわけだから、彼ら彼女らが冒頭ここまでの文章を読んだとしたら「あぁ、ダーキ、お前はすぐに話を盛るクセがあるけど、それは盛ってないな」と言ってくれると思う。



...


今日は「これは書けないな」と思うエピソードのうち、ある1つのエピソードを書いてみたいと思う。やはり起きたことをあるがままに書いてきた私だから、今日の話も起きたことをあるがままに書きたい。


なんの話かというと、ペットの話である。

今までnoteに書いたことがないのだけど、実は私の家にはペットがいる。名前は「エジソン」といい、最初は雑種の犬であった。

私も妻も犬が好きだから、いまからちょうど1年前、いよいよ犬を飼ったほうが先々いいのではないかということで、札幌市南区は真駒内まこまないで開催された犬の譲渡会に行ってきたわけである。

細かな描写をすると文字数があまりに多くなってしまうので割愛するが、そこで全身真っ黒の柴犬のような雑種犬に出会った。

生後まだ半年だったということと、譲渡会にいたワンコロたちの中で最も元気ランランのワンコロだったので「この子がいいね」ということで引き取ったわけである。


それで家に連れて帰り「今日から君はエジソンだ!」と命名したのだ。エジソンという名前にした理由は特にないが、なんだか語感がよさそうだし「エジ」「エッくん」「えっちん」「えっちょ」などのニックネームへの転用もスムーズそうだったからだ。


そこから黒い元気な雑種犬、エジソンとの愉快な毎日が始まった。


...


1ヶ月も経過するとエジソンは私たち夫婦のことをすっかり親だと認識し、妻の愛情もドバドバ。私は私で「おい、エジソン」と話しかける。エジソンは呼ばれるとピンクの舌を出しながらこちらを向く。

「お手、お座り、伏せ」に加えて「発明!」と言うとエジソンは2本の前足を顔の前でくいくいっとやるようになった。器用なものだ。それをみた妻は「エジ〜! えらいねぇ〜」と甘い声で言うのである。


本題はここからだ。

あれはエジソンが我が家にきて半年経つかたたないかのころだったと思うのだが、ある朝目覚めると、いつもエジソンが寝ている小さな布団の上に黒い「猫」が寝ていた。

黒い猫は静かにくーっと寝ているから「あれ? なんで猫がいるんだ?」と奇妙な気持ちになる。

我が家はマンションであり、妻はセキュリティにうるさいから戸締りもきちんとしている。つまり猫など侵入してくるはずがない。

ここに黒い猫がいる、という事実は事実として受け取るとして、じゃあエジソンはどこへ行ったのか。寝ている妻に「ねぇ、エジソンがいないんだけど」と言うと、妻は血相かえて飛び起きて「どういうことっ!?」と家の中を探しはじめた。黒い猫がいるのはどうでもいい、という様子である。

それで妻と一緒になって家の中をくまなく、ゴミ箱の中まで探すんだけど、エジソンはやっぱりどこからも出てこない。

「エジ〜、エジソン、えっちゃん、えっち〜」

何度呼んでもエジソンの姿はなく、妻は生気の抜けたような顔をしている。エジソンは犬だけど、私たち夫婦にとってはもう子どものようなものなのである。生気も抜けて当然だ。

ふと寝室のほうを見ると、さっきの黒い猫がゆっくりと歩いて出てきた。全身が黒く、目の白目の部分が黄色い。ちゃんとした黒猫のようだ。猫特有のチンタラとした歩き方でこちらにやってくる。

妻が「なんで猫いるの」と今気づいたかのように怒気を混ぜた声で言う。猫には目もくれず「エジソン、エジ〜、どこに行ったの?」と妻は泣きそうな声で、というかもう泣いていたんだけど「エジ〜、どこに……」くらいのタイミングで黒い猫が妻の足元に駆けていった。

「にゃ〜」

奇天烈なことに、私はこの黒い猫がエジソンなのではないかと思った。だって黒いし。

犬から猫に変わってしまっているという事実は到底受け入れられるものではないが、ここではそれしか浮かばない。理由を考えることもない。

妻は「?」という顔で黒猫を見ているのだが、私が「エジ、何してるんだ?」と話しかけると、黒猫は私の方を向いた。「エジ」に反応してるっぽい。

「こいつさ、エジソンだよ」

ここまで読んでくれている方が仮にいらっしゃったとして、私はただただ感謝したい。本当にありがとうございます。

そして信じられない気持ちもわかるのです。私も同じ気持ちでした。犬が猫に変わるだなんて、ありえませんよね。でも、あったんです。……なので起きたことを起きたままに書くしかない。それ以外の方法を知らない。

...


黒い猫を見つめながら、ちょっと実験、と思って手におやつカルパスを持ってみる。それで言ってみたのだ。

「エジソン、発明!」

こう言うと、目の前の黒い猫は2本の前足を顔の前でくいくいっとやるではないか。得意げな顔である。

私は確信する。
よし! こいつはエジソンで決まり! 

だって名前を呼んだら来るし「エジソン」「エジ」「えっちゃん」「えっち」の全てにいい感じで反応している。しかも「発明」もやるのだから、これはもうこの世界でたったひとりのエジソン以外のなにものでもない。こいつはただのエジソンなのである。


「ほら、こいつ、エジソンだよ」と言うと妻は、


「あ〜〜〜〜ん! エジ〜! よかった〜! エジエジ、寂しかったの〜? ごめんね、ごめんね、エジエジ〜!」とアニメのように泣きながら大喜びでエジソンをやさしく抱きしめた。


その様子を黙ってみていた私だったが、数秒遅れてその抱擁の輪に加わったのであった。


<あとがき>
もうちょっとこの不条理シリーズを続けてもいいかなぁと思っている自分がいます。これも昨日と同じようにカフカの『変身』のオマージュです。不条理感みたいなものをなぜ書きたいのか、ということをもう少ししたらこのnoteで書いてみたいなと思っています。エジソンっていい名前ですよね。今日も最後までありがとうございました。

【関連】不条理シリーズその1

この記事が参加している募集

#アウェイサポをおもてなし

229件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?