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なぜ投票率を上げなければいけないのか?~利権から考える~

2022年7月10日に参議院選挙が行われることになりました。そこでよく言われるのが「投票に行きましょう」です。「自分の意見をちゃんと表明する」ために「選挙に行きましょう」、「政治を変える」ために「選挙に行きましょう」という文脈で伝えられることが多いと思います。
ただ一方で、「自分の意見を表明」しても表明した意見通りにならない、「政治は変わっていない」と考える人もいるでしょう。今までの法制度や仕組みを変えるのには手間がかかり、急に世の中が変化することは難しいという側面があります。そういうことを考慮しても「政治は変わっていない。政治は機能していないのでは?」と思う人がいるでしょう。そういう考えを持つ人の疑問に答えていこう、というのが今回の記事の目的です。
「政治は変わらない」から「投票に行かない」という行動には、ますます「政治は変わらない」を加速させます。「政治を少しでも変えるべきだ」と思う人は「政治は変わらない」と思っても我慢強く投票に行きましょう、これが今回の結論です

「投票」と「政治」の関係は?


「投票」による「政治の変化」という関係。考えられる因果関係・論理関係は次の4通りです。
①「投票に行く」→「政治が変わる」
②「投票に行く」→「政治が変わらない」
③「投票に行かない」→「政治が変わる」
④「投票に行かない」→「政治が変わらない」

もちろん個人で見れば③の可能性もありうるでしょう。ただ、国民全般が「投票に行かない」場合は③になることはなく、④になる。そういうことを伝えます。
ちなみに②なら選挙制度は実質機能していないことを指しています(例:北朝鮮)。
①は必ずしも成り立ちませんが、だからといって投票に行かない場合は④になるので、「選挙に行くしかない」という表現が正しい結論になります。

「政治」と「利権」の関係

国の政治と利権の関係を、議員連盟・世襲議員・自民党の派閥という側面から見てみましょう。

議員連盟(議連)

議員連盟とは、

「特定の目的を達成するために国会議員が所属する集団」

と言えます。例えば、

「自由で開かれたインド太平洋」を推進する議員連盟
(2021年設立。最高顧問:安倍氏)

という議員連盟があります。「自由で開かれたインド太平洋」の実現という“目的”を達成するために、国民の投票で選ばれた国会議員が集まって、その在り方を考えたり、提言を内閣に提出していこう。そのような志のもと集まった議員たちの集団のことを言います。
以下のAREAの記事によれば、議員連盟の数は不明だが、少なくとも800はあるといいます。個人で100を超える議員連盟に所属している人もいるようです。

最近では、「ラーメン議員連盟」設立は大きなニュースになりました。
「議員連盟」自体は、地方議会にもあります。地方特有の問題を解決するために結成しているものが多いようです。
少なくとも、国会議員の議員連盟はインターネットで調べる限り、活動がよくわからないということがあります。どれくらいの頻度で、だれが集まって、どういう会合を開いたのか、ほとんどの議員連盟で知ることができませんでした。ただし、会合に出席した人が自らのHPで写真とともに「〇〇の活動に参加しました」「~という発言しました」のように載せているのは見受けられました。また議員連盟には「ジビエ議連」のような業界に関するものもあり、ジビエ(狩りなどで得た野生の鳥獣)の業界のHPで「国会議員と懇談・会食しました」というのも見つけました。このように業界の人が活動の一部を紹介する場合もあります。ですが、議員連盟側が自らの活動を紹介していない場合がほとんどです。(ただし、内閣に提言を出したときなどはニュースとして報じられることがあります)
議員連盟はある種のブラックボックス化しています。国会議員というすべての国民が自らの努力ですぐに加入できない団体であるにもかかわらず、国会議員としての「説明責任」を果たしていません。したがって、特定の利益を供与する人(例:ジビエ議連のジビエ業界のような人)以外にとって(場合によってジビエ業界のような利益を受ける対象の人でさえ)、有能な組織であるかということが判断することができません。そのこともあり、国会議員のHPなどでたくさんの所属議員連盟が記載されているのは「活動をしているかのように見せるため」ともいわれます。議員連盟はそのような課題があるのではないか、と言えるのではないでしょうか。

前置きが長くなりました。議員連盟は「利権」とどうかかわっているのでしょうか?
国会議員は多くの人に投票してもらわないと、国会議員としての職を得ることができません。となると様々な人たちに配慮する必要があります。漁業に従事する人、農林水産業に従事する人、働き方を変えたいと思っている人、もっと神道の活動を広めたいと考えている人、昔ながらの文化を守っていきたい人…さまざまな人に配慮する必要があります。議員にしてみれば「業界に関係する人にアプローチできれば、支持者を広げることにつながるだろう。なので業界に関係する人に投票してほしい」と考えるので、たくさんの議員連盟に所属していると言えると思います。

逆に業界の人(投票する側)から見てみましょう。議員連盟は先ほども記載した通り、国会議員しか加入することができません。そのため、活動功績は国会議員の人しかありません。となると、「別の人に投票し当選させたら自分の業界のメリットが少なくなるのではないか?」と考え、同じ人に投票することになるでしょう。議員が業界に関する議員連盟に入れば、その業界の人と付き合いがあるでしょう。業界で務める人にしてみれば、付き合いの場で自らの苦悩を国会議員に話したりすることもあるでしょう。「自らの意見を国政に反映してくれているのではないか」、そういう思いもきっとあるはずです。

要するに、国会議員が業界の議員連盟に入る→業界の人と関係を持つ→業界の人の改善点を踏まえ政策を実行する→業界の人はその議員を応援する→国会議員に再び当選する→議員連盟で活躍する。このサイクルがあるのではないか。そういう見方ができるわけです。となると、(政治家が変わらないという意味で)大きく政治が変わることはないのではないか。そういう考え方もできるわけです。

世襲議員

世襲議員とは、

「政治基盤・政治資金などを受け継いで議員になった人」

と言えます。具体例を述べる前に、選挙に当選するために必要だといわれる「三バン」の話から話しましょう。「三バン」とは、

「看板」(知名度)
「地盤」(応援してくれる人)
「カバン」(選挙運動資金)

の3つのことを言います。「看板」は知名度。知名度がなければそもそも投票してもらえません。「地盤」は「この人を国会議員にするために働いてくれる支持者」のことです。国会議員になるためには立候補者1人ではなれないので、広めてくれる支持者が必要です。「カバン」は選挙運動資金です。供託金など、選挙にはお金が必要です。これら3つがそろっていないと当選できないといわれています。

例えば、父が国会議員だった。その「三バン」という土台を引き継いで立候補して国会議員になる。それが「世襲議員」ということです。「世襲議員」と「三バン」についてまとめると、以下のようになります。

  • 「看板」(知名度)→知名度が確立

  • 「地盤」(応援してくれる人)→後援会が熱心に擁立

  • 「カバン」(選挙運動資金)→政治献金を受け継ぐ

有名議員の子が政治活動をしていなくても、後援会が自らの特権を守るために子に立候補をお願いするケースもあるということです。それだけ後援会にとって国会議員がいることは、とてもメリットだといえます。
また、同じような人たちに支えられるということで受け継いだ子は親と同じような政治思想を持ちやすいです。となると、政治が大きく変わらないのではないか。そう考えることもできるわけです。

自民党の派閥

次に派閥についてお話増しましょう。
派閥とは

「組織内で形成する利害・政治的意見などを共有する小集団」

と言えると思います。政治の世界では、同じ政党に属していても細かい政治的な意見は違うということがあり得ます。そのような人たちでグループを作る、この集まりを派閥といいます。派閥には選挙資金供給組織という側面、つまり選挙に当選できるように資金を出してバックアップしてあげる、ということをやっています。なので同じ思考傾向を持つ人たちが当選しやすい仕組みになりやすい。そのようにみることができます。
自民党の6派閥)清和政策研究会(安倍派)、宏池会(岸田派)、平成研究会(茂木派)、近未来政治研究会(森山派、旧:石原派)、志帥会(二階派)、志公会(麻生派) (2022年6月25日現在)

ちなみに立憲民主党にも派閥みたいな集まりはあります。ただ、掛け持ちも可ということで、自由民主党とは違ってゆるいグループになっています。
例) サンクチュアリ、新政権研究会、国のかたち研究会、直諫の会、自誓会、花斉会、小勝会 、小沢一郎衆院議員のグループ (2022年6月25日現在、参照文献は下記参考文献にあり)  

「政治」と「利権」のまとめ

お金を持っている、もしくは(全国的な業績が無くても、地方の視点で見ればすばらしい)政治的な業績がある。そのためには国会議員経験者(またはその周りにいる人)が有利という事になります。日本では、そういう制度になっています。では、このような構造を変えるためにはどうすればいいのでしょうか?

利権に関係する人は必ず投票する。それ以外の人は必ず行くとは限らない

有権者100人いる村として、「国の政治」と「利権」を考えましょう。上記で説明した利権を持つ人がどれくらいいるかわかりません。ただ、世の中に「2:6:2ルール」という考え方があるので、それに即して「利権」に関係する人(=当選することで得になる有権者)が20人、まったく関係ない人が60人、「利権」によって不利益を被る人が20人いるとします(実際、利権に関係する人は20%程度だという考え方もあるようです)。立候補者は長年国会議員を務めているAさん、初めて立候補するBさんの2人を考えます。
日本における投票率が50%前後ですから、それに即して50人投票に行くとしましょう。利権を持っている人にしてみれば、「投票」することで自らの利益になるので、必ず投票に行きます。Aさんに20票が入るので、過半数まで到達するのは残り5票です。残り5人味方にすればいいわけです。
一方、投票率が上がって80%、80人投票することを考えましょう。利権を持っている人は必ず投票に行くので、Aさんは必ず20票獲得できます。過半数は40票ですから、Aさんが当選するには少なくとも残り20票獲得しなければなりません。当選のハードルが上がりますよね? 5票よりも20票獲得する方が難しいですから、Aさんが落選する可能性も高まるわけです。
とりわけ日本のような同じ政党が政権を握っている期間が長い場合、投票率が低ければ同じような人しか当選しなくなります。それは、現職の議員を応援している人の意見が通りやすいことを意味しています。

このようなことから、「投票に行かないと、政治は変わらない」「投票しないと(本当の意味で)国民の意見を反映できない」と言われるわけです

参議院選挙だから与党以外に投票するという考え方もある

私は「今の政権与党がダメだ、政権交代をするために与党ではない人に投票すべきだ」と伝えたいわけではありません。「今の政権が変わらなかったとしても、与野党の勢力が均衡すれば、世間的な批判を考慮した政策や意見がもっと通るのではないか?」「政治の変化を実感するのではないか」と考えています。
政治の大枠を決めるのは、政権を担当する内閣を運営している人たちです。国会議員でいえば、与党議員(の一部の集まり)ということになります。与党は内閣総理大臣を出している政党のことを言います。内閣総理大臣は国会議員の投票によって決まります。憲法上国会議員の中から選ぶことになっていますが、衆議院議員から選ばれる傾向にあります。なぜなら、「解散があり任期が短い衆議院議員のほうが、総理大臣を選ぶ際に民意を反映している」と考えるからです。そして、その総理大臣を選ぶ選挙の多くは衆議院選挙後に行います。これらのことから、衆議院選挙で多く議席を獲得した政党のトップが内閣総理大臣に傾向にあります。

特に外交は内閣の意向に国会が左右される

経済政策や外交などを考えて「政権は今の与党でもいい」と思う人もいるでしょう。例えば「外交は今の政権に任せたい」という場合を考えましょう。外交関係の法律ももちろん作られますが、外交は(異なる主権を持った)相手がいる以上、内閣がほかの国と約束した決まりごと・条約を否定するような法案は通すことはありません。そのような法案が提出されても衆議院は内閣を組織している政党によって否定されることがほとんどでしょう。よって、外交に関しては内閣の思い通りに運営することができることが想定されます。

政策を決めるうえで内閣の意向が強くない“願い”こそ、参議院で投票できる

しかし、政策を決めるうえで内閣の力が強くなくても変更できる政策もあります。そういうものに関しては参議院選挙で意見を述べることもできます。「マイノリティの権利をもっと認めてほしい」「夫婦別姓の議論をもう少し進めるべきだ」のような思いは参議院選挙で訴えることはできるのではないでしょうか。
緊張感をもって政治をしてほしい。その思いも参議院選挙で伝えることができます。
もちろん、もし参議院で与党の議席数が野党の議席数を下回ると「ねじれ状態」や「ねじれ国会」という言われ方をします。予算案や法案がすぐに決まらなかったりして政策が進まないので「ねじれはよくない」と否定的に言う人もいます。逆に言えば、予算案や法案を通すために与野党が妥協しなければいけないという側面があります。ある種の「緊張感」が生まれるわけです。世の中の情勢によって「ねじれ状態」の賛否は異なりますが、参議院選挙ではそのバランスをどう考えるのか。そういう視点もあってもいいのではないでしょうか。

投票日に向けて

あまたある政策ですべてが自分の考えと一致する候補者なんているはずありません。もしそういう人がいるという人は奇跡です(結婚相手でもそういう人はマレでしょう)。だから各自が考える「社会の在り方」「政策」の多くをあきらめることも必要です。そういうときに「参議院ってどういう性質だっけ?」などと衆議院と参議院の特徴を知ったうえで、参議院選挙の場合は衆議院選挙とは別の視点で自分の投票先を決めてもいいでしょう。

最後に

今まで述べた意見は一つの意見です。さまざまな考え方があると知って、そのうえで自分でひとまず結論を出してみてください。
そして投票権がない満18歳未満の人たちも「自分ならどの人に、どの政党に投票するか」ということを考えてみましょう。そうすることで、「この人、ちゃんと活動しているのかな?」と思ったり、「この政党、なんかあまり私の思い通りに活動してくれていない」という気付きを得ることができます。ぜひそのようなところから始めてほしいと思います。

参考文献

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