その後の菜穂子③<#あなぴり 創作 全4回>
ピリカさんの前半部分と、ぱんだごろごろの後半部分は、こちら
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その続き、一回目はこちら
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二回目はこちら
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<承前>
「うふふふふ。揺り戻しがきたわね、菜穂子さん」
「ライフプランニング研究所」の所長、恰幅のいい中年女性である、進藤晶子は、デスクの上の、パソコンの画面を眺めながら、嬉しそうに独り言を言った。
「何ですか? 所長」
【ワークライフバランス部門】担当の中林が、やや気味悪そうに所長を見遣って訊いた。
「ほほ、何でもないわよ」
晶子は居住まいを正すと、
「人生、山あり谷あり、それはね、順調ってことなのよ」
そう言うと、菜穂子に宛てて、メールの返信を打ち始めた。
『佐倉菜穂子さん、
この度は、メールをありがとうございます。
今回のご相談の内容についてですが、私どもから差し上げられる答えは、
「何もしない」
これだけです。
綺麗になったあなたを、さんざん褒めそやしてくれた、職場の同僚の人たちが、今度は急に冷たくなった、それも、仲間はずれのような行為までしてきた、ということですね。
これは、実はよくあるパターンなのです。
それまで同じ集団の中にいた人が、一人だけ急に抜きん出てくると、初めは周囲の人たちは、その人をもてはやします。
自分たちの中から、スターが生まれたようなものですから、周りも嬉しいのです。
ところが、しばらくすると、周りはその人から距離を置こうとし始めます。
なぜかと言うと、その人が羨ましいから。
妬ましいのです。
ついこの間まで、自分たちと、どんぐりの背比べで、似たような相手だと思っていた人が、急に手の届かない高みに行ってしまうように思えて、何とか高いところへ行かせまい、自分たちと同じ場所に留めよう、とし出すのです。
要するに嫉妬です。
仲間はずれにするのも、そうすれば、相手が、自分たちと同じレベルに戻って来て、今まで通りに付き合えると思うから。
心の中が、ザワザワしないで済むからです。
言うまでも無く、こんな相手に付き合って、せっかく上げたレベルを下げる必要はありません。
今、佐倉さんのモヤモヤを消すための、レベルアップ計画は、順調に推移しているのですから。
こういう相手は無視しましょう。
同僚として、必要最低限の挨拶や連絡だけをして、あとは放っておくのです。
ただ、決して、相手をおとしめてはいけませんよ。
あくまで優雅に上品に、ただただ無視しましょう。
あなたは女優でしょう。
にこやかに演じてください、アヒルがたくさんいる中に、一羽だけ紛れ込んでしまった白鳥の役を。
では、またのご利用をお待ちしています』
菜穂子は、「ライフプランニング研究所」から届いた返信メールを読んで、笑い出してしまった。
『すっごーい、私はアヒルの中の白鳥ってわけね』
笑いながらそう独り言を言うと、俄然、元気が出て来た。
『ほんと、自意識過剰の人みたいだけど、確かにあれこれ周りを気にしても、仕方ないものね。
さあ、今日はどこにも寄らずに早く帰って、久し振りに本でも読もうかな。
お風呂上がりにパックをしながら、英会話の動画を見るのもいいかも。ここのところ、さぼりっ放しだったものね』
スーパーの従業員出入り口にいる、守衛のおじさんに元気良く挨拶をして、菜穂子は駅に向かって歩き出した。
(続く:次回、最終回です)
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