初詣
近所の神社で、初詣に訪れる人達に、甘酒が振る舞われる、という話を聞いてきたのは、遼一だった。
「行こうぜ」
幼なじみの誘いに、穂高は、
「うん」
と答えた。
「いやあ、やっぱり寒いな」
元日になったばかりの、午前零時、お参りを済ませて、お目当ての甘酒を飲んだあと、二人は人通りのない道を歩いた。
深夜、気の合う友人と二人きりで、他愛もない話をしながら歩くのは、普段、学校で過ごす時間と違い、穂高に軽い高揚感をもたらした。
そんな穂高の変化がわかるのか、遼一が手を差し出してくる。
ためらいもなく、穂高はその手を取った。
中学三年の今に至るまで、幾度となく、つないできた手だ。
この相手以上に親しい人を、穂高は知らない。
「暗いね」
「怖い?」
そう言われ、ふと隣をうかがうと、遼一は、握った手に、ぎゅっと力を込めてきた。
あれ程仲の良い親友の姿が、この瞬間、まるで知らない人のように見える。
手を引こうとしたが、遼一の力強さは、穂高の本能的な逃げを許さなかった。
辺りは暗く、ひっそりとして、人影もない。
遼一はついに歩みを止めて、道の真ん中で、穂高に向き合った。
穂高は、どくどくと鼓動を打つ、自分の心臓をなだめながら、切羽詰まった情の色を瞳に浮かべている相手にささやいた。
「怖くない」
つないでいない方の手を、遼一の肩に置く。
「遼一と一緒だから、怖くないよ」
遼一は、穂高が嫌がること、怖がるようなことは、絶対にしない。
それには確信があった。
遼一の身体から、緊張が解けていくのがわかる。
いっときだけ燃え上がるような関係はいやだった。
わがままかもしれないけれど、長続きするものが欲しい。
遼一の肩にまわした手を、そのまま後ろにすべらせて、穂高は、こめかみを彼の首筋に押し当てた。
つないだ手を外し、そちらを遼一の脇から背中に回す。
自然に、遼一の両腕が、穂高の背中におりてきて、彼の身体をそっと抱きしめた。
「暖かい」
思わず声が出る。
穂高にはわかっていた。
自分では普通にしているつもりでも、穂高は、傍から見ると、変だと言われることがよくあった。
それが原因で、苛められることもあったのだが、そんな時、庇ってくれるのは、いつも遼一だった。
「おまえは変じゃない。気にするな」
その言葉は、穂高の気持ちを落ち着かせた。
そして、遼一の存在は、彼にとって、いつしか心の中にともり続ける、灯りにも似たものになったのだ。
この相手だけは、一生、ずっと大切にしたい…。
再び手をつないで、二人は通りの角まで歩いた。
その角を曲がれば、お互いの家までは、あと数分の距離だ。
曲がり角にぽつんと立っている、街灯の下で、穂高は、遼一の目を見ながら言った。
「今日はありがとう」
にこりと笑う。
「今年もよろしくね」
それを聞いて、遼一も、つられて微笑んだ。
「ああ、よろしく、穂高」
そして、穂高のよく知っている、いつもの穏やかな声で言った。
「新年、おめでとう」
(1197字)
ぱんだごろごろです。
先日、「才の祭 小説部門」に「幼なじみ」を書いて応募したところ、
読んで下さった方の中から、「続編を読みたい」という、有り難いお言葉を頂戴しました。
【冬ピリカグランプリ】があることを知り、こちらで、再び、「幼なじみ」の二人を登場させることにしました。
字数の関係で、続編と言うよりは、二人の過去を描くことになりました。
この「初詣」だけでも、独立した作品となっています。
【冬ピリカグランプリ】に参加させて頂けますことに、御礼申し上げます。
なお、タイトル画像は、かくたすずさんのイラストを使用させていただいています。
私が、今までnoteで書いてきた、短い小説のタイトル画像は、すべてかくたすずさんによるイラストです(まだ三つ目ですが)。
▼「弟」
*小説ではありませんが、こちらもかくたすずさんのイラストをお借りしています。
かくたすずさん、いつもありがとうございます。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
サポート頂ければ光栄です!記事を充実させるための活動費, 書籍代や取材のための交通費として使いたいと思います。