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春霖

この雨で桜が散る前に、
君に伝えたいことがある。

二つの傘が並んで歩く帰り道、他愛もない会話の狭間で、僕らは何度めかの静寂を迎えた。空白のふきだしの中を雨の音だけがしっとりと埋め尽くしていた。一緒に帰ろう、とついぞ誘ったのは僕の方なので、彼女も何かしらの気配を感じとったのかもしれない。

その言葉を紡ごうと僕の口が開いては閉じるのを、多分彼女は気づかないふりをしていた。僕はそんな彼女を横目に、ビニール傘に張り付いた桜の花びらをじっと数えるふりをして、いるふりをしていた。

あわよくば向こうから、と待っていた狡い僕を許して欲しい。
なんて、曇天の下、目の覚めるような黄色い花柄の傘を隣に小さく懺悔する。

薄紅色の斑点が増えていく。
雨に透けるその儚さに僕は目を細めてしまった。



引き摺った足音を境に。

二つの傘は立ち止まり、
最後に小さく揺れて重なった。

この雨で桜が散る前に。

君に伝えたいことがある。


春霖(しゅんりん)




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霖の漢字が、雨のなかを歩く二人みたい。
さて、あえてこの告白とは、どっち?のつもりで書いたのですが、いかがでしたでしょうか?アイデアは「桜並木、二つの傘」フジファブリック、より。

そしてこちら、旅野そよかぜさんの企画に参加しています。
いつも企画ありがとうございます。
まだ4月も始まったばかりなのですが、さっそく。

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