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山笑う

私は、昔から目が悪かった。親からの遺伝だと割り切っていたとは言え、小学校の健康診断で視力が1.0を下回った日のことを、未だに覚えている程度にはショックだった。


初めてメガネを買ってもらうと、

世界はよく見えた。


驚いたのは、
壁にかけてある古い家族写真より、親の顔にはずっと皺が増えていたこと。
通学路の信号のライトが実は粒々で出来ていると知ったこと。
今まで一本線で描いてきた山際は、本当は細かなギザギザだったこと。

中学に上がって以来、すっかり毎日コンタクトにお世話になっている今でも、ふと山を眺めるとこの事を思い出す。山は木々の集合体なのだ、と。

その一本一本が、芽吹き、花をつけ、葉が茂り、
野山は少しづつ柔らかな春色に染まっていく。

「山笑う」か。言い得て妙だなと、ついこちらも微笑んでしまった。

山笑う(やまわらう)


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