蕗の薹
蕗の薹。
早春、周囲を葉に包まれて顔を出す、淡緑と萌黄色のつぼみたち。
大学時代、あなたの恋人になってから、
車を買うとき、就職先を決めるとき、自身のアパートを契約するとき、そんな人生の決断をする度に、私は無意識になるべく身軽でいようとしていた。
あなたが呼んだら、いつでもついていけるように。
これまでの一つ一つの思い出が玉のように連なり、身を寄せ合っては私を形作っていた。
あなたに恋い焦がれる。
傷つかないようにと自ら纏っていた膜は、いつの間にか取り払われ、
むき出しの心は、柔らかく、そして酷く脆かった。
でも、あなたは私を選んではくれないんだね。
取り残された茎が伸びていくにつれ、
私はすべてを昇華する。
年月が経っても思い出す。
ほろ苦い、春の味。
蕗の薹(ふきのとう)
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