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オフィスの賃貸料を各部署で負担しよう(後編) ~ 超初級 誰にでもわかる管理会計 ~

第5話

本日の登場人物

先生
本日は、オフィスの賃貸料を各部署に負担してもらう方法を勉強します。いきなりですが問題を用意しました。ご自身で配賦ルールを考えてみてください。

ある会社では、オフィスの賃貸料をどのように各部署で負担するか議論しています。コンサルティング部の部長は、現行の配賦ルールだと自身の部署に不利になっていると主張をしています。公平性のある配賦ルールを検討する事になりました。

  • 直接部門は、営業部とコンサルティング部の2つある。

  • 営業部は社員が2名、コンサルティング部は社員が70名在籍している。

  • オフィスの賃貸料を直接配賦法を使って社員数で算出しようとしたところ、コンサルティング部から物言いが来た。彼らの主張は以下3点。

  • 主張①
    オフィスの賃貸料のうち、コンサルティング部エリアの負担は納得がいくが、会議室の負担割合に納得がいかない。

  • 主張②
    会議室は営業部が多く利用している。しかもイベントで一定期間貸し切りの時もある。利用できないのに費用は負担しているのは納得がいかない。

  • 主張③
    その期間は我々は習慣的に外部の会議室をレンタルして利用していた。その費用も会社で負担して欲しい。

  • 経営層もコンサルティング部の主張に一定の理解をした。

  • 一方で、経営層は会議室を誰でも自由に使えるようにしたいと考えている。単純に利用時間で費用換算すると、会議室の利用抑制になってしまわないかと懸念していた。

新人経理
うーん、
直接配賦法を使って...いやいや、相互配賦法を使うんでしょうか...。

先生
考えてみて答えが分かったら次に進んで下さいね。


-- 回答 --

先生
こちらが回答です。といっても答えは一つではないので、一例として解釈してください。

  1. オフィスを、営業部エリア、コンサルティング部エリア、共有部(会議室以外)エリア、会議室エリアに分け、専有面積の割合からそれぞれのエリアの費用を算出する。

  2. 営業部エリアの費用は営業部が負担する。同様に、コンサルティング部エリアの費用はコンサルティング部が負担する。

  3. 共有部(会議室以外)エリアの費用は、営業部とコンサルティング部の所属社員数の割合で負担額を決める。

  4. 1ヵ月以上先、もしくは、一定期間専有する会議室の予約は有料にする。利用する部署が費用を負担する。

  5. 会議室が満席になっていた時に利用する外部会議室の費用は会社が負担する。

  6. 会議室の費用は、「会議室エリアの費用]-[有料利用した金額]+[会社負担した外部会議室の費用]とする。

  7. その費用は、営業部とコンサルティング部の所属社員数の割合で負担額を決める。

新人経理
これって、配賦方法というより社内ルールのような感じです...。

先生
ははは。確かに、社内ルールをぽいですね。意図的に専門用語を使っていないのでそう見えてしまうかもしれませんが、管理会計の配賦ルールとして利用できます。
一般社員にまで影響が及ぶような事は、会計に詳しくないに人たちにも分かるように記載することで、透明性や公平性さを確保できます。

まあ、既にルールが存在する場合には、そのルールに沿って配賦ルールを作ると良いでしょう。存在しない場合には、社内ルールの策定から着手する必要がありますが、その際に影響を受ける方々(例題のケースだと部長)を巻き込んでしまうと良いと思います。

ひょっとして、〇×△配賦法といったキラキラした素晴らしい方法を期待していましたか?

新人経理
はい。私が今まで勉強していた本にはそんな事書いてなかったので少し拍子抜けしました。

先生
実は、教科書に書かれているような配賦法は大雑把なんです。実際の業務にぴったり合うならそれでも良いと思いますが、例題のケースだとそうはいきません。ルールと実運用に歪みあると損をしてしまう方々がでてきてしまうので注意しましょう。全てのケースを救う事はできませんが、できるだけ公平でありたいところです。

では、具体的に配賦を解説します。

先生
まず、それぞれの部署の費用はそれぞれの部署が負担します。

それぞれの部署の費用はそれぞれの部署が負担

先生
次に、共有部(会議室以外)エリアの費用は、営業部とコンサルティング部の所属社員数の割合で負担額を決める。

共有部(会議室以外)エリアの費用

先生
配賦する会議室の費用は、[会議室エリアの費用]-[有料利用した金額]+[会社負担した外部会議室の費用]とします。

配賦する会議室の費用を算出

先生
最後に会議室の費用を配賦します。

会議室の費用を配賦する

先生
ちなみに、予約分の費用は、会議室全体の面積と予約分の面積と時間から算出します。外部会議室を借りるよりか割安になるようにするのが一般的です。
このように実際の業務では、教科書に載っているような単純ではありません。

新人経理
はい。とてもすっきりしました。



[おまけ]
社内ルールがあるのに、それに従って管理会計上の計算をしていないケース

新人経理
ところで、既に社内ルールと管理会計上の計算が違うケースってあるんですか?

先生
実はあります。
はい。代表的なのは残業代です。
一般社員が残業したら残業代として支払うのがルールです。労務上はちゃんと支払っているにも関わらず、管理会計で残業を業績に加味しない会社は割とあったりします。
管理会計は、財務会計や人事労務と違って強制力のあるルール(つまり法律)がなく自由に決めれらるからこそ、気を抜くと管理が大雑把になりがちです。
抜け漏れが起きても、法律上問題ありませんから、会社内で継続して注意する必要があります。

新人経理
管理会計で残業を業績に加味しないとどうなるんでしょうか。
見かけ上の利益率が良くなるけど、会社としてはちゃんと残業代を払う分けだし、あまり大きな影響がない気がします。

先生
本来ならば残業代は残業原因となった案件に費用計上します。費用計上することによりその案件の利益率が下がります。利益率が低くなれば経営層は理由を調べるためチェックが入り、重要な事象であれば解消に向けて検討されます。

一方で、管理会計で残業を業績に加味しない状態だと、上司からすると部下をいくら残業させても利益率に影響しません
よりよい商品開発やサービス提供に力を注ぐべきところを、安値で契約をし足りない労働力を残業でカバーするといった短絡的な戦略を選ぶ人も出てきます。ちょっとだけ売上が足りない月に、そのような誘惑と葛藤する方もいるでしょう。なにせ部下は定額使い放題の状態ですから。。

新人経理
すごく怖い話ですね。ウチの会社にはそのような部長さんがいない事を願ってます。

先生
このようなケースでは、管理会計上では利益がある筈なのに実際には利益がなかった、といった状態に陥ります。さらに、ちゃんと利益をもたらしてくれる本当の良いお客様も見えなくなってしまうのも問題となります。

逆にいえば、管理会計を徹底させることで健全な状態になります。

-- 目次 --

第1章 部署ごとに業績を把握しよう

第2話 部署ごとに業績を把握しよう はじめに
第3話 年間の費用を分解しよう
・実務簿記1 仕入勘定ってあんまり使わない
・実務簿記2 保守契約の負担額を月々で分けよう
・実務簿記3 実務的な原価償却
第4話 オフィスの賃貸料を各部署で負担しよう(前編)
第5話 オフィスの賃貸料を各部署で負担しよう(後編)
第6話 《まとめ》部署ごとに業績を把握しよう

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