子どもが出てくる映画の話をしよう⑱ 中国の”今”『シスター 夏のわかれ道』

 2022年日本公開の中国映画『シスター 夏のわかれ道』を見た。
新聞かなにかで紹介されていたときから気になっていた。タイトルだけみると、まるで修道女の話のようだが、ここはもうその名の通り「姉」の話なのだ。原題が『Sister』なんだな。

 物語は、交通事故のシーンではじまる。
 やってきた若い娘アン・ランは、警察に「君はだれ?」といわれて答える。「私は(事故にあったあの人たちの)娘です」
 そして場面が切り替わり、両親の葬儀のシーンへ。
 ここで、彼女は、まったく自分はあったこともない年の離れた弟と出会う。その後の親族会議で、問答無用で弟の世話を任されるアン・ラン。でも、彼女は北京の大学院で医者になるために勉強したい。自分の未来を決めるそんな時に、まったくなじみのない弟(8歳)の世話などしていられないっと、言い切る。

 こうなると、幼い弟が不憫な気もしてくるが、アン・ランの、もやもやとした思いが次第に見えてくる。
 弟のことを知らないくらい両親と縁が切れていたのは、両親が「女」である自分と、「長男」である弟への待遇があまりにも違っていたから。
 どうやら、中国の「一人っ子政策」や「家父長制」が、自分の人生を歩みたかったアン・ランの前に立ちはだかっていることがわかる。
 そのようすは、男兄弟のために自分を犠牲にしてきた叔母など、親類の様子からもうかがえる。

 といった社会背景は別にして、この映画の第一の魅力は、このアン・ランにあると思う。ショートカットで、はっきりものをいう。彼女の表情に終始目を奪われていた。両親が亡くなろうと、つらくとも、涙を流すのはずっとずっとずっとあと。何かを切り捨てるように行動していく。
 いやー、なんかいい空気をまとっている女優さんだわ。
 一応いえば、叔母役の女優さんも めちゃくちゃよかった。
 ほかの男優さんたちも、見ているうちにだんだん好きになってしまうのは、役者と脚本がいいからじゃないのかな。

 で、子役の少年。6歳くらいの子供に語らせるには、ちょっと本質をつきすぎた台詞が多いけれど、この子もよかった。寂しさをギリギリまで全面にださない淡々とした表情がいい。なかなかに やんちゃな悪童なのも、いい感じだった。

 ところで、異国の映画って、ストーリーとは別の、けっこう他のことに目がいくんだよね。
 今では、アジアはどこの国も似たような町並みで、似たような家の中。
 だからこそ、異国を感じるところがあると、楽しい。
 たとえば……葬儀で麻雀をしたり、その牌が やけにでかかったり。
 あけすけな遺産配分のやりとりはリアルで愉快だったし、お墓のようすもやっぱり違うわけで、異国の映画をみてわくっとするのは、こういうところじゃないのかな。

 それは、その物語世界にどっぷりつかるために、とっても大切なこと。
 どっぷりつかってみました。 

 タイトルの絵は「みんなのギャラリー」からお借りしました。Thanks。

 
 




 





 

 

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