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「奈落暮らし」6日目-0730

 まだフェスの日程としては折り返してもいないのに、すでに腰が痛い。奈落ではどうしても体をあまり動かさない時間を長く過ごすことになるので、ストレッチを定期的にするべきかもしれない。

 東京都から「感染拡大特別警報」が出る。初耳のフレーズ。それはいったい何。どれくらい危ないの。この名前のインフレの、何だかなあ、という感じ、どこかで見覚えが…と思ったら、チェルフィッチュ『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』(全然違うけど)で、「前のシンプルな名前のソフトクリームのほうが美味しかった、今回のこれはぜんぜん私の口に合わない」とお客さんがコンビニにクレームに来る、あの流れを彷彿とさせるのだなと得心がいった。手元に戯曲がないので正確な引用が出来ないのが残念だ。もっとセリフとしては苛烈なものだった。クレームを真摯に受け止めすぎたがために、それをきっかけとしてアルバイトはコンビニを辞めてしまうのだが、果たして現実はどうなるのだろうか。

 【(in)visible voices-目にみえない、みえる声たち-】7月30日20:00からのパフォーマンスを映像で観る。吉祥寺シアターのロビー踊り場を、これまでに何十回と通り過ぎてきたのに(毎年恒例のようにある吉祥寺シアターでの青年団の公演中、劇団員が当日運営のお手伝いによく駆り出されるのである)ちゃんと意識したことはなかったが、あそこは確かにかなり天井が高い。それを巧みに利用した舞台美術だった。渡邊織音さんの功績である。だんだん上昇していく紙に絵を描くという構図を観たことがなく、ダイナミックな演出に成功していた。室旬子さんのタッチは、稽古場にお邪魔したときにも思ったが、ネガティブな言葉をそのまま受け取らずに、かといって無視もせずに、モチーフとして取り入れる傾向が強く、殺伐とした言葉が来ても、殺伐とした印象を与えない。しかし素人目にも発された声の痕跡はみてとれるのである。
 稽古をみた私も知らなかったことだが、山下恵実さんが最後に、全体をインスタントカメラで一枚の写真におさめるラストシーンを入れてきたのは意味深だった。今回の劇場祭の記録を、私はスマホで無節操にガシガシ撮っては自身のグーグルドライブにあげまくっているが、それとは全く意味合いが異なる。あの時のあの光景はあの瞬間にしかないということを、そしてそれは昔も今も変わらないということを、簡単に記録しているうちに時々忘れてしまう。舞台芸術は、恐らくこの世界に誕生してから現在に至るまで、その刹那の取り返しのつかない重みは変わっていないのである。


◎オマケ

 吉祥寺シアターから歩いて3分ぐらいのベトナム料理屋、チョップスティックスへ。小屋入りしてからというもの、あまりにもしっかりとした食事をとっていなかったので、ある種の危機感をもってテイクアウトに行った。

<昼食>
コムガー
★★★★

 小屋入りしてはじめて、しっかりとした米を食べた満足感が高かった。ただ、ナンプラーをはじめとして、アジア系の調味料で苦手なものが多く(ヨーロッパ系で苦手なものは何故かほぼない)、ついてきたソースを抜きで食べれば良かったかなと悔いるが、その勇気は、食べ始めに出せなかった。

<夕食>
バインミー
★★★★★

 メニューをみてなかったのでよくわからないけれど、何かのパテがとにかくうまい。魚か肉かよくわからないけれど、このパテはうまい。もしかしたらパテじゃないかもしれないが、あちこちに入っている灰色のグチャっとしたやつがうまい。グルメレポーターにはなれそうにない。


チーフ・キュレーター 綾門優季

いただいたサポートは会期中、劇場内に設置された賽銭箱に奉納されます。