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【なんて素敵なディスプレイ】#02

すべてのモノにドラマがある。

「どうです?こちらの写真」
「公衆電話ですか。近頃メッキリ減りましたね」
「電話ボックスに、素晴らしい商品ディスプレイがございます!」
「商品、ディスプレイ…ですか?」
「日本酒の紙パックです」
「有名な、どこのコンビニでも見かけるモノですね。でもこれゴミですよね?」
「良く見てください!ワンカップでは無いんです!紙パックなんです!コレをこの場所で開けて飲んで飲み切っている…そこにドラマが見えませんか?」
「ドラマ…ですか?」

「コレをここに置いた方は、若い女性です」
「女性?監視カメラでも調べたんですか?」
「見なくても明白です。東北出身の女性でこの春上京し、仕事を頑張りながらも空回りしてしまい、ついコンビニで日本酒紙パックを購入しました」
「それは偏見ですよね?勝手な妄想ですよ」
「彼女は紙パックと500円分のテレフォンカードを買って、この電話ボックスで田舎のご家族、またはご友人に弱音を語ったことでしょう」
「今どき、スマホがありますよね?」
「きっと家は会社の寮や、両隣のカベが薄いアパートなんです。ケータイ代だってバカにならない。500円分だけ、またはこの紙パック1本分だけ弱音を吐露して、そっと帰宅したのです」
「なんで女性なんですか?しかも東北の?」
「注目すべきは、まずワンカップではない所です。どうしてもワンカップはオジサンくさい。今どき若者はチューハイのロング缶です。それが紙パックです。コンビニの袋に入っていても気にならないデザイン。そして東北の方はお酒に強い!だからと言って、大きいサイズではない。最初から途中で飲んで、飲み切って帰ろうと考えたのです」
「あ〜でも、そうかも知れませんね…だとしたら、ツライ今を涙ながらに話をしていたのかも…」
「だから500円分なんです。もうあと100円分、もう30円分と表示されることで気持ちの切り替えができます」
「確かに女性にはそういうスイッチあるかも…」

「コレがワンカップだったら、オジサンが競艇で負けてやけ酒で飲んで、ゴミを放置したように見えるでしょう。そしてコレがロングの紙パックならば、誰かが忘れてしまったのではないかと心配になってしまう。沖縄の方なら泡盛だったかも知れないし、鹿児島なら芋焼酎だったかも…」
「なるほど、そう考えると、確かに素敵なディスプレイですね。お酒のチョイス、質感と大きさと、実にバランスが良いワケですね…」
「思わずコンビニで買ってちょうど良い印象です」
「では何故このゴミを置いて行ってしまったんでしょうね?」
「そこです!社会人として最低限のルールは守らなくてはいけない。だけど彼女は、今の現実がツラくて涙ながらに愚痴りました。本当は故郷に帰りたい。でもその一言は言えません。この地で頑張ろうと決めて出てきたのだから。テレホンカードのカウントダウンが佳境に近づき、日本酒も飲み干し、改めて明日から自分らしく生きて行こうと少し上を見て、勢い良くこの電話ボックスの扉を開いたのです!」
「ああ、なんかそんな気もします」
「コンビニの袋は丁寧に畳んでカバンに仕舞っています。そして飲み始めに外したキャップも、カバンの中に入れて持ち帰ったのでしょう。深夜の電話ボックスです。うっかりその紙パックを忘れてしまった…」
「じゃあコレはゴミではなく、忘れ物…本当に日本酒のコマーシャルみたいな展開ですね」
「だから素敵なディスプレイなんです」

「…でも、この写真撮った後、ゴミを拾って捨てたんですよね?」
「そんな無粋なことはしませんよ!私は一切手を触れていません!」
「え!なんでですか?」
「再雇用のシニアの方が街の掃除しているのですから、仕事を奪ってしまう!まあ分業制のハリウッドスタイルですね!」
「…そのまま放置ですか?」
「放置じゃありません。ゴミを再活用し、ディスプレイとして紹介している。これこそがSDG'sですから…」
「なんだそれ?」
変な時代だ。

街は物語に溢れている…

     「つづく」 作:スエナガ

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