本には旬がある
本には旬がある。
同じ本でも、そのとき自分が置かれた状況で味わいは変わる。
「ふーん」で終わってしまうこともあるし、感動してずっと記憶に残ることもある。
本には鮮度もある。
話題になっているうちに読むほうが、本を取り巻くお祭りみたいなものに参加できる。鮮度を逃すと、気になっていても今さら感が出て読めずじまいなことも多い。おすすめされた本、もらった本もその場で読みだすくらいの勢いじゃないと、なかなか読まない。
だけど、あたためていた本は、ウイスキーのように寝かせるからこそ味わい深くなるものもある。……かもしれない。
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9年間あたため続け、化石になりかけていた本をついに棚から取り出した。
今読まないと、この先ぜったいに読むことはないと強く感じたからだ。
『君の膵臓をたべたい』
住野よるさんの有名な小説だ。
9年前、誕生日プレゼントにと、友人がくれた。
ぜったいに泣けるやつだ。
もらう前から気になっていた本だったけれど、当時は共感しすぎて感情を引きずるのが怖くて、なかなか開けないままだった。
その友人とは、新卒で入った会社の同期で、配属先が唯一同じ。
今は働く場所も住む場所も違うけど、私たちのルーツとなった場所で、久しぶりに会うことになった。
それまでに、どうしても読みきりたいと思ったのだ。
愛の告白で「月がきれいですね」と言いそうな友人らしい、
伏線回収がおしゃれな小説だった。
だいぶ前のことだからプレゼントしたことも覚えていないだろうし、今さら読んだことを伝えるのはいささか失礼な気もする。
だけど、私はずっと覚えていたこと、本棚を見るたびに友人を思い出していたこと、素敵な小説をプレゼントしてくれて嬉しかったこと、会いに来てくれる友人にちゃんと伝えたいと思う。
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