金融機関が顧客に質問するのは愚行である【森本紀行】

これすごい。まんま、ESG評価に当てはまる。

あんな分厚いアンケート調査が来て喜ぶ担当者なんていない。何度もエンゲージメントに対応して、「ESGにおける我が社の課題が整理できます」「投資家の要求や世の中の動きが分かります」なんて社交辞令を言いながら、本音では誰しもウンザリしている。産業界全体で生産性が落ちるばかり。

金融を利用している実業や家計の経済活動は、正の価値を創造しているが、金融自体は、金融の利用費用を発生させるので、負の価値しかない。金融が虚業といわれる理由である。虚業が成立するのは、経済活動の正の価値が金融の負の価値よりも大きいからである。

聞かずとも教えてくれる関係、それが理想である。顧客が業者に問うことで、問う動機が明瞭に業者に伝わり、業者は適切に対応できるが、逆に、業者が顧客に問えば、問う下心を暴露するから、問うてはならない、これが商業の基本であり常識である。

わかりやすい例が医師と患者の関係である。患者は医師に全ての症状を報告する。そうしないと、最善の治療が受けられず、患者の不利益になるからである。患者は、問われずとも、自己の利益のために、積極的に語るのである。

顧客が問われずとも金融機関に語ることは、金融機関への信頼の表明であり、顧客の利益の視点での最善の提案を期待する意思の表明である。翻って、現状を顧みるに、金融機関は顧客に問うことで営業の野心を暴露し、顧客は警戒して口を閉ざすことで不信を表明しているのである。


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