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合成の誤謬

気候変動イニシアティブ(JCI)は、本日、パリ協定を実現する野心的な2030年目標を日本政府に求めるJCIメッセージ(別紙1)を公表しました。このメッセージには、290団体(企業 208、自治体 22、その他団体・NGOなど 60)が賛同し、名を連ねています(別紙2)。本メッセージの公表にあたり、末吉竹二郎JCI代表は、菅総理大臣、茂木外務大臣、梶山経済産業大臣、小泉環境大臣に対し、「45%を超え、50%削減へのチャレンジを」を求める書簡を送りました(別紙3)。

これもおかしな話です。
26%削減ですら道筋が立っていないのに、50%削減なんてGDP半減でもしない限り達成できるわけがありません。
世界最大のCO2排出国は2030年に排出量をピークアウトする=2030年までは排出量を拡大し続けると言っているのに。
排出割合でたった3%強の日本が半減させたところで、28%超の国がまだまだ増やすのであれば誤差で吹っ飛びます。

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個社では緩和策(=CO2削減)貢献の技術や製品があるので賛同しているのだと思いますが、マクロで見たら日本企業全体の国際競争力を落としてくださいと国に提言していることにこの経営者たちは気が付いていないのでしょうか。
この208社の中には、改正コーポレートガバナンスコードで今年6月から求められる気候変動リスクの開示の準備を進めている企業があるはずです。またTCFDに賛同している企業もあるはずです。
将来の気候変動リスクを開示して投資家の皆さんに対策や成長戦略を説明しているはずなのに、事業活動の基盤となる日本経済の衰退と日本企業全体の国際競争力を落とす方向で国へ提言するという矛盾に全く気が付いていないようです。

まさに、典型的な合成の誤謬です。

まともな投資家であれば、こんな提言をする企業からは投資を引き上げるはずです。逆にこれを称賛する投資家がいたら要注意です。一時的に企業の株価が高まって売り抜けられればよいので、長期的な企業価値向上も地球環境のことも考えていないことの証左となります。

それとも、このイニシアティブは50%削減なんてそもそも無理と分かっていながら格好だけで提言しているのでしょうか?
そうだとすれば、ここに名を連ねた208社の経営者たちは自社の事業計画で何の道筋も根拠もなく「10年後に売上高を5倍にする!」「営業利益を10倍にする!」なんて言うのでしょうか。「根拠はないけど事業計画は立派なので安心して投資してください」と言うのでしょうか。

仮に全世界でパリ協定の目標を達成したところで、気候変動は止まりません。IPCCも認めています。
非現実的な緩和策一辺倒ではなく、気温上昇が+1.5℃でも2℃でも2.5℃でも市民や企業が生き延びられるよう適応策にシフトせよ、という提言であれば私も大いに賛同いたします。

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