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帰国、退職、これから、ドバイ

5月中旬に帰国していましたが、8月末に(株)ウィルグループ(以下ウィル)を退職し、9月からドバイに住みます。これまでの10年については、前回の記事に書きました。ここでは、なぜドバイに行くのか、ミャンマーでのクーデターを経て、これから向かう先について、今考えていることを書き残しておきたいと思います。

1. 何一つ、抗えず、、、

「田村さん、今すぐ出国した方がいい。田村さんの名前が、軍が追う日本人3人の内の1人に入っている。ミャンマー語のリストが出回っている。」

知人からの忠告があったのは、4月中旬のことでした。半信半疑でしたが念のために大使館に相談し、安全と思われるホテルに避難したところ、さらに複数の知人からも同様の連絡が入り、これはいよいよ本当かもしれない、と思うようになりました。ちょうどその時期コロナとクーデターによって経済的に困窮したミャンマーの方々を支援するクラウドファンディングを主催し、多くの方々の思いが集まり、わずか3週間で約1500万円を調達できたことで目立ってしまったことが原因かもしれません。政治的な主張は一切行わず、人道援助に絞った活動でしたが、軍からは反政府の民主化勢力を支援する資金調達と誤解された可能性がありました(真偽は藪の中ですが、実際にその文脈でミャンマー語で拡散されたケースが見られました)。

ホテルの一室に籠る前後に書いた日記に、今回の決断に繋がる考えを書き付けていました。

(2021年4月10日、ヤンゴン )
悔しい。何もできなかった。起こっていることに対して、あまりに無力だ。わずかにいくつか行ったこと、抵抗だって、己の力ではない。会社と(上司は私の意思を全面的に尊重してくれた)、それを土台にして、何かをしたいと思っている人たちの力を借りて、言い訳の様に行ったに過ぎ無い(※クラファンなどのいくつかの試みのこと)。

心を耕し、この悔しさの種に水をやり、強く大きく育てる。絶対に忘れてはいけない。何もできずに不条理に打ちのめされ、目の前の惨状を、目の前の友人、知人、同僚、ミャンマーの人々の無念さに対して、何一つ大きな力をもって抗うことができなかったことを忘れてはいけない。

(2021年4月19日、ヤンゴン )
中村哲先生の様に水を引きたい。中村先生は医者として人を助けにアフガニスタンに行ったが、人々が健康に、平和に暮らすために井戸を掘り始め、農地のために水路が必要だと悟り、ゼロから土木工学や重機の扱いを学んだと記憶している。ファイナンスは、お金の流れを作ることに他なら無い。多くの人は大きな水路を作ることに夢中だ。私は、必要とする土地に小さな水路をたくさんつくりたい。

2. MBAとファイナンス

9月より、Hult International Business SchoolMBAMaster of Finance(ダブルディグリー)で学ぶことに決めました。世界4カ国に6つのキャンパスがあり、最初の半年はUEAのドバイ、最後の半年はアメリカのボストン、その間は上海、ロンドン、ニューヨーク、サンフランシスコのどこかで学ぶつもりです。

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ミャンマーで6年間、ビジネスを通して微力ながらも社会をよりよく変革していきたい、ビジネスは皆が幸せに暮らしていくための最高のツールの一つだ、という思いで取り組んできましたが、何一つ抗うことができませんでした。クーデター勃発から4日の2月5日のnote記事には「雇用を維持し、できればより多くの雇用を生み出すことが、一介のビジネスパーソンである私がすべき最も大切な貢献なのだろう」と書いていましたが、今となっては頭がお花畑だったと言うしかありません。雇用を生み出すどころか一緒に事業をつくってきた大切な仲間も守れずに事業縮小に追い込まれました。

ホテルに避難してから出国までの数週間、部屋に籠り様々考えましたが、頭に浮かび上がるのは「力が足りない、力が欲しい」という思いでした。特にファイナンスの力、お金の流れを作り出す力の欠如を痛感しました。シンガポールで4年、ミャンマーで6年、やってきたことは事業開発という言葉で括れるかもしれません。見知らぬ土地で事業の種を蒔き、水をやり、成長させるということについては少しばかりはできるようになってきたのかもしれませんが、それは近くに大きな川が流れていたからできたことであり、川が枯れると何もできない自分がいました。

グローバル経済が拡大し、ラストフロンティアと呼ばれたミャンマー経済が門戸を開き、日本の国内市場の限界やチャイナ+1、地政学的な力学も働いたことにより、日本政府や日系企業がミャンマーに投資する大きなお金の流れが生み出されていました。私はその主流の端っこで水を引き入れて、小規模な生産をしていたに過ぎず、本流が断たれてしまうと、あっという間に引き入れる水がなくなってしまったのです。クラウドファンディングで多くの方々のお金をお預かりして食糧支援を行うことができたことは間違いなく価値あることだったと思う反面、今振り返るとビジネスを通したお金の流れを作り出す力がない自身への言い訳という側面もあったのではないかと感じています。

ビジネスパーソンとして、経営者として、人間として、目の前の現状を打開することができず、あらゆる力が足りていない現実を見せつけられました。これは「精神と時の部屋」にでも入り、修行するところから始めないといけないな、またゼロからスタートするしかないな、と思ったのが、MBAとファイナンスを学びながら、次を模索しようと決断する理由となりました。

3. ジーン・シャープ教授の思想と暗号通貨

今後模索してみたいもう一つの軸が、ジーン・シャープ教授の思想暗号通貨の可能性です。

人類の歴史における「独裁」を研究してきたジーン・シャープ教授の思想は、「独裁体制を非暴力な抵抗によって倒すことは可能である」また「その後の安定した民主主義体制を確立するためにも、暴力ではなく非暴力による独裁打倒が必要だ」と言えるでしょうか。2月1日以降、毎日のようにミャンマーで起こる悲惨な出来事を見聞きする中で、では一体どうしたらミャンマーに平和で民主的な体制を取り戻す、もしくは打ち立てることができるのか? 私はその動きにどう貢献することができるのか? と考えていた際に、日々進化しながら拡大していくCDM(ミャンマーにおける市民的非服従運動)の思想的土台には、このジーン・シャープ教授の研究や著作(ミャンマー語に翻訳され無料でダウンロードできる)があることを知りました。

ジーン・シャープ教授は著書『独裁体制から民主主義へ』の中で、「戦略的」な非服従による抵抗・闘争の重要性を何度も説いています。「全体計画→戦略→戦術→方法」や「強み弱み」のコンセプトなどは、ビジネスの知識を民主化運動に当てはめたのではないか、と思うような記述が何度も出てくるのです。そのような記述の中の一つに「独裁体制のアキレス腱はどこか?」という視点があります。盤石に見える独裁体制にも弱みはたくさんあり、最も弱い部分「アキレス腱」を戦略的に非暴力な方法によって攻撃することにより体制を弱体化させ、民主化へと繋げることができる、という考えです。ここでもう一つのキーワードである「暗号通貨」と独裁への抵抗という考えが交差します。暗号通貨を活用することで、軍事政権の持つミャンマーという国における通貨発行権に挑戦できないだろうか?

クーデター発生以降、事業運営とクラファンによる現地での食糧支援両方において、最も頭を悩ませてきたのが「お金の問題」でした。ミャンマーに送金できない、銀行から引き出せない、チャット(MMK)の価値が下落する、USDに両替できない、給与の支払いができない、銀行業務が止まる、銀行取引が軍によって監視される、、、果ては銀行が潰れる、軍が現行紙幣を廃止する、などという噂も飛び交っています。

元々「貨幣」とは何だろう? 「価値」や「信用」とは何だろう? という問題に興味があったことも手伝い、強制的に「お金」とは何か、という問題に向き合わざるを得ない環境に置かれたことで、軍のコントロール化にあるMMKをミャンマーの人々が拒否し、暗号通貨で新たな経済圏をつくることで、軍支配を経済的に弱体化させることはできないだろうか。暗号通貨の使用が、ジーン・シャープ教授の言う「アキレス腱」になり得るのではないか、可能性はゼロではないだろう、と思い立ちました。ジーン・シャープ教授の著書の巻末に掲載されている「非暴力行動 198 の方法」の中には「政府紙幣を拒否する」という方法が提示されていますが、研究当時は非中央集権的な暗号通貨は存在していませんので、ルールチェンジが起こる可能性はゼロではないだろう、と。

クリプト界隈に詳しい友人に相談してみると、その分野のエンジニアの方などを紹介して頂き、「田村さんがやろうとしていることって、サトシナカモトが実現したかった世界観そのもの」で、「暗号通貨の本来持っている可能性や意義が発揮されたユースケースになり得るので協力しますよ」とまで言ってもらいました。こちらは1ビットコインも持っていないど素人だったのに、数多くの貴重な助言を頂き、全面的に協力して頂いています。

直近は通貨と経済や国家との関係について読み進めながら、何から取り組むのが良いのだろうか、と考えているのですがが、ミャンマー民主派のNUG(国民統一政府)が暗号通貨での資金調達の呼びかけを公式に始めるなど、思っている以上に早いスピードで事態が動く可能性もあるかもしれません。すでに軍がコントロールするMMKを新たに作る暗号通貨(Myanmar Doller)によって置き換え、民主化を実現しようとするプロジェクトが動き出しています。信頼できるプロジェクトかどうかの見極めは必要ですが、以下、リンク集です。(iOSのWalletは開発中の様です)

Main Site:https://www.myd.money/#main
Facebook:https://www.facebook.com/MyanmarDollar
Discord:https://discord.gg/S5rRzRHy
Telegram:https://t.me/myd_airdrop_bot
Twitter:https://twitter.com/MyanmarDollar
Android Wallet:https://play.google.com/store/apps/details?id=money.myd.mydwallet
iOS Wallet: https://apps.apple.com/app/myd-wallet/id1582088673
Whitepaper (Eng): https://www.myd.money/downloads/MYD_Whitepaper_en.pdf

一方で、独裁国家における仮想通貨の可能性を探る上でのベネズエラの例のように、またまだ試行錯誤の段階ですので、何百何千と失敗しながら前進する無数の社会実験の一つに貢献できたら、という思いでいます。

4. 大河の一滴、されど一滴

クーデター以前には、「何がしたいの? どこ目指してるの?」と聞かれると、「ミャンマーで2030年までに売上100億円規模の社会に貢献できる会社に成長させながら、西回りでドバイやアフリカで事業を立ち上げ、地球をグルッと一周回って、55歳で宇宙に行く」と答えていました。イーロン・マスク氏への憧れ以上にモハンマド・ユヌス氏を尊敬する反面、子供心に憧れたのはマルコポーロ やイヴン・バットゥータのような生き方「晴耕雨読」のような静かな生活でした。

しかしミャンマーで、誠実に努力して生きてきた友人や同僚たちの人生が、理不尽にも一瞬で奪われてしまった現実を目の前で見てしまった後では、もう少し社会に対して責任を持てるような人間になりたいと思います。ミャンマーだけではなく、パレスチナやエチオピア、アフガニスタンなど世界の至るところで目を背けたくなるような理不尽が蔓延しています。日本国内でも、こどもや高齢者の貧困、経済格差など不条理がまかり通っています。今もミャンマーで必死に生きる友人たちがいることを忘れず、やりたいこと、学びたいことに取り組むことができる自身が置かれた幸運さを胸に、毎日を過ごしていこうと思っています。

引き続き、クラウドファンディングで皆様からお預かりしたお金による現地での食糧配布や、(株)ウィルグループ や共同創業したミャンマーでの事業にも一部関わり続けます。また暗号通貨を活用した支援の実験的な取り組みの企画も進めていきたいと思っています。私自身は「大河の一滴のごとき」小さな存在ですが、多くのお世話になった方々や、助けて頂いた方々から受けたご恩を、「されど一滴」と奮起して、微力ながらお返しし、また社会に還元できるように努めていきたいと思います。今後とも、何卒宜しくお願い致します。🙇‍♂️

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