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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第三章 苦痛の葬送曲(レクイエム)
571.干し柿

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 顎を抑えながら涙目になったデスティニーはコユキに問い返す。

「え、ええっ! 返すの? 今更ぁ? もう皆忘れて新しい一歩を踏み出してるからさ! 今更幾らかの現金と売り物だった貴重品が帰って来ても戸惑うだけなんじゃないかな? それって正解なのかぁ? 俺、甚だ疑問だよぉ?」

 今まで以上に大きなアクションでコユキに言い返したデスティニーの肩口から、背負っていた大きな袋が地面に落下して、中に入っていた貴金属や高級そうな時計の数々が音を立てて姿を現したのである。

 ガシャァッーァ! ガラガラガラ、キラッキラッ!

「あ、ヤベっ!」

 コユキは散らばった高級そうな品々を見ながらさらに語気を強めた、ちなみにすべてお店のタグが付いたままの財宝達を見下ろしながらであった。

「やっぱ、アンタギッテんじゃないのぉ! もう言い訳とか弁明とか一言でも言ったら許さないわよぉっ! さあ、返しに行くわよっ! 嫌とか言うんだったらアタシと相方の聖魔騎士、善悪は今後一切協力しないんだからねっ! 世界を滅ぼすわよ? それで良いのん? デスティニー・ラダっ! どうっ!」

 一切間を置かずに三人目の運命神は答える、全ての欲を捨て去った美しい笑顔であった。

「それは困るよ、真なる聖女コユキ、分かったよ、返しに行こう、二十六軒の金持ちとブランドショップだけど世話を掛けるね…… 後はこの干し柿だけなんだけど…… どうしよっかな?」

 コユキは存外に素直になったデスティニーに多少拍子抜けしつつも聞く。

「干し柿? それも盗んだの? だったら返そうよ、でしょ?」

 デスティニーははにかんだ表情を浮かべて言う。

「いやこれはね、武蔵村山に暮らしていたお婆ちゃんがね、十年ぐらい前まで毎年、持って来てくれていた干し柿を真似て俺が干して作ったヤツなんだよ…… 数年前にお婆ちゃん死んじゃってさぁ、気紛れで看取りに言ったら『運命の神様、ありがとう、この家も空き家になるけど良かったら家の庭の渋柿、これからも貰って下さいね』、何て言っちゃって死んじゃったからさ、グスッ! それ以来、実が成ったら取りに行って、一所懸命干していた柿なんだよなぁ、どうしよっかな? これ?」

 コユキの双眸そうぼうは大雨が降った様であった。

「…………それは、持って行きなさいよ! もうっ! アンタも馬鹿ねっ! 馬鹿過ぎよっ! 良い? 来年も再来年も、柿の木が実をつけ続ける限り、いつまでも採りに行かなくちゃダメだよ? アンタ! その時にはもうアタシや善悪は居ないだろうけど、グスッ! 約束しなさいよっ! デスティニーさんっ!」

「……ああ、約束だね、分かったよ」

 その後、貴金属や高級時計、金のインゴットなんかを返却する為に、調布市内の豪邸や商店を回った二人はバレない様に効率よく仕事を進めたのである。

 これまで盗みを繰り返して来たデスティニーは勿論、『加速アクセル』を使用したコユキも手分けして返した事で夕方には何とか終りを告げる事が出来たのである。

 想像通り、カルラの元となった『鶴の尾羽』を入手した鳥の羽コレクターの豪邸も返却先に含まれていた。

 因みに現金については按分あんぶんするのもどうか、と言う話になった結果、コンビニの募金箱にまとめて入れると言う暴挙に出たのである。

 無事、支援を待ち望んでいる人々の手に届けば良いのだが……

 後はコンビニのオーナーや店長、スタッフたちの良心に期待するしか無いのである、既に現金は二人の手を離れたのである。

 最初はチャラい格好付けてばかりの運命神だと思えたデスティニーは、この間、キャラ設定が崩壊したかのように無口で黙々と作業に打ち込んでいたのだった。

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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