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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
45.虚を実とし実を虚とす

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

 目の前に立っているのは、幼馴染のコユキなのだが、善悪には魔物か何かに見えているようだ。
 良く分からないが、急激な運動によってスポーツ貧血みたいな感じになって、前頭葉ぜんとうように影響でも与えたのでは無いだろうか?

 一時的な見当識けんとうしき障害に見舞われている善悪には、ここがどこなのか、自分が誰なのか、目の前の巨漢が女なのかが判断出来なかったのだ。
 様々な事柄が不明確な状態、わば濃霧のうむの森の中を手探りで、目的も分からぬまま彷徨さまよい続けていると言った所であった。

 一般人であれば、戸惑い、所在なさげに只その場でうずくまり、不安に体を震わせてしまっても不思議では無い。
 しかし、全てを忘れ去ったかに見えた善悪には、揺るがぬ一つの真理が残されたままであったのだ。

 そう、彼は僧侶、サンガ、沙門しゃもんなのだ。

 幼い日々より、その身の全てを捧げ、一心に道を求め修行を積み重ねて来た、彼にとっての唯一無二の絶対なる存在。
 それは、『信仰』、いいや、彼自身の『仏性ぶっしょう』なのであろう。
 遠く過ぎ去りし日に、信仰を捨て忘れきってしまったこの観察者にも非常に興味深い事この上ない。

 たった一つだけ残った『光り』を感じつつ善悪がコユキに向けて口を開いた。

「その力、言い伝えに聞く伝説の魔王『ザトゥヴィロ』か、噂にたがわぬ凄まじい魔人よ。  だが、祖国『ベナルリア王国』の為、そして我が剣を捧げた『マーガレッタ王女』の愛に応える為に、貴様の野望は今ここで、この俺、王国のつるぎ『ゼンアク・ヴァン・コーフク』が止めて見せる! 」

 えー? 中に入ってる内容が全然違った……
 たぶんオリジナルのファンタジーか何かだろう。
 なんか、生臭かった……
 仏のほの字も入っていなかったね、残念。


 ともかく、王国のつるぎとやらは魔王・ザトゥヴィロに抗うあらがう為に静かに高めたその闘気の質を変貌させていく。
 練り上げた全身から溢れ出すその気配から感じるのは、明確な殺意。

 濃密な殺気を纏ったまとった、王国のつるぎは魔王に向かって宣言した。

いにしえの巨悪よ、暴虐の権化と呼ばれた貴様に王国を好きにはさせぬ! 我が肉を千切れ、我が骨を砕け、我が目をえぐれ、我が手足を食らえ、どのような目に合おうとも構いはしない! ただ一つ、貴様は、ここで…… 殺すっ! 」

「へ? 善悪? 先生? なんて? 」

「問答無用! 喰らえ! オラッ! 」

「! っ? スッ! 」

 驚いた事に、善悪の攻撃はその鋭さを数段上げてコユキに襲いかかり、コユキの回避もギリギリであった。

「ちょ、ちょっと待って! 何かおかしい様な…… 」

「まだまだまだ、オラッ! オラオラッ! 」

「くっ!     スッ! スッ! スッ! 」

 やはり先程まであった余裕は無い。必死の形相ですんででかわすコユキである。

 そのまま暫くしばらく、オラッオラッスッスッと繰り返していたが、不意に善悪が両手をふところに入れ左右の手にはテイザー銃、いわゆる射出タイプのスタンガンが握られていた。

「くたばれや! オラッ! オラッ! 」

 打ち出されたスタンガンを紙一重で躱すかわすコユキ。

 続いて善悪がたもとから取り出したのは、銀色に輝く刀身と柄が一体になった金属のスローインナイフであった。
 流れる様な動作で投げつけられた六本のナイフが、一斉にコユキへと肉薄する。

「スススススス! 」

 間一髪であったが何とかやり過ごし、一瞬安堵あんどから気を抜き掛けたその時。

「死ねや化け物ぉぉ! オラオラオラオラオラオラオラオラ! 」

「! やばっ! くっ! ス ス ス ス ス ス ス ス! 」

 今のはマジでヤバかった、流石にコユキも額に冷や汗を浮かべ、慌てて善悪との距離を取った。
 瞬間。

「掛かったな」

 ニヤリとニヒルな笑みを浮かべた善悪が、再びふところから取り出したのはジェットタイプの護身用催涙スプレーであった。

「ひゃっは──っ! 汚物は消毒だ────! ファイヤ────! 」

 掛け声と共に一気に射出される唐辛子スプレー、
 慌ててコユキは境内中を猛ダッシュ(五十メートル三十秒)して逃げ回る。
 どたどたと何とか逃げ回り続けていると、違和感に気が付いた。

「ス────────────────…… ん? 」

 善悪の追撃がいつの間にか途切れている事に気付いたコユキが境内を見回す。
 善悪を探してキョロキョロして見ると、コユキの場所から死角になっていた植え込みの間に姿を見つけた。

 目の辺りを真っ赤に腫らして止めなく涙を流し、口から泡を吹きながら、くらくらと体を揺すって、辛うじて立っていた。最早、継戦けいせん能力は失われている様に見えた。

 茂みに隠れてコユキを狙撃しようとしていたのだろう、その発想は良かったと思う。
 相手のきょを突くのは洋の東西、時代の古今に関わらず、戦いにける定石じょうせきだ。

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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