【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
390.クチシロ
まあ、四つ集めたとはいえこんな体たらくである、リエがチャンス、いや問題視するのも仕方がない有様であったのだ。
ショボンと口にしたコユキに対して善悪は優しい笑顔を浮かべつつ述べたのであった。
「んまあ、リエちゃんはコユキ殿より随分大らかに育ったと思うのでござるよ♪ それよりも、次のアーティファクトでござるが……」
コユキは目を輝かせて言うのであった。
「瘤取り爺さんね? ね、そうでしょ? 小太りのお爺ちゃん達の聖遺物が遂に日の目を見るのねぇ~!」
善悪はため息と共に告げるのであった。
「いや、昔話のパターンは結果が見え難いのでござる! 故に今回は結果が想像しやすい日本の特性、多神教独特のアニマズムの原点! アニメ、いいや漫画に焦点を絞ってみるのでござるよ! 目指せ、兵庫県神戸市長田区の漫画の巨匠、昭和のアニメの聖地、ズバリ、『若松公園』で、ござるよぉっ!」
「むうぅ、んでもそれならアタシだって分かるわよ! 魔法使〇サリーやコメット〇んの作者のあの御方でしょ?」
「そそ、バベ〇二世や六神合体ゴッ〇マーズ、例の忍者の話や、三国相食む中国のお話を描き切った、あの日本の至宝、横っちょの山で光り輝くあの御方のお膝元でござるぅぅ!」
「うほほおぉ! テンション上がって来たわねぇ! 行こうよ、善悪っ! いざ神戸へ! ね? 明日行くのん?」
ノリノリに乗り捲ったコユキに向かって善悪は申し訳なさそうに告げたのであった。
「あ、いや、明日は大切な荷物が届くからさ、最速でも明後日かな…… ちっと待っててねん、ゴメだけど…… スマソ」
「なんだ、ノリノリだったのに、冷ますわねぇ善悪ぅ~」
「ごめんね……」
そうして翌日の早朝、無事現代のゴブリンが運んできた大ぶりの荷物、三個口を受け取った、善悪和尚は台所に立ち、例のヤツ、秋沢明が律儀に贈ってくれた『シャトーブリアン』を塩分やシーズニングの類を極限まで抑えた上で薄味に、だけども完璧な技術を以って焼き上げたのである。
周囲に立ち込める豊潤で食欲を誘う素材本来の甘みを引き立てる肉の香り……
匂いにつられて野獣と化したコユキを宥めるのが本当に大変で、まあ、煩かった。
喰わせてくれろぉ、後生じゃぁー、とかなんとか喚き騒ぎ続けているのを何とか押さえつけ、善悪がアジ・ダハーカと、連れて行けと言い続け頑として折れなかったパズスを伴って向かった先は、お隣の音成さん家のペスの小屋の前であったのである。
コユキも肉の前とは言え善悪と急遽助っ人を頼まれ駆け付けたリエによる、必死の応援によって正気を維持する事に成功し、カギ棒を握りしめ役目を果たそうと己の野生を抑え込んでいたのであった。
善悪がお隣さん、兼檀家さんの音成さんに依頼した案件は、忠実に守られたようである。
本日のペスは朝のお散歩をすました後の通常なら供される朝ご飯を抜いてこの時間を迎えていたのであった。
飢えたペス(♀)のぎりぎり届かない鼻先には、丹精込めた料理上手の善悪和尚謹製の秋沢明が丹精込めて育てた松坂牛のシャトーブリアンのステーキである。
動物愛護団体の人とかが見たら怒り出すこと必定であろう。
しかしながら、この場にそんな優しい魂は皆無であったのである。
「ぐるるるぅぅぅぅ! がうがうががががるるるるぅぅぅぅぅぅ!」
最早ペスが涎を流しているのでは無く、涎にペスが付いている状態であった……
善悪が叫んだ。
「今でござる! アジ! クチシロに伝えてっ! 早く来てってぇ!」
「は、はい、伝えましたぁ!」
瞬間、音成ペスは顕著な違いを衆目に晒したのであった。
具体的には、イヌ科に有るまじき青く輝く鬣を靡かせた二足歩行の魔狼、大口の真神『クチシロ』がペスを依り代として現世に顕現した、その瞬間だったのである。
グルルルロロロロロオオオオオオォォォォォォ!
バヴァアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!ツッッッ!!!!
紫電と紅蓮の炎、猛毒の蒼い風を身に纏った、地上に存在する事すら不自然に思える極大の悪意が顕現したのであった。
周辺の大気そのものを震わせるほどの咆哮を響かせながら現世に顕現した巨大な魔族、魔狼を前にして、沙門善悪は勇気凛凛でコユキに告げるのであった。
「今でござるよ! コユキ殿ぉ! ぷすっと行ってぇ! 行っちゃえぇぇ! プスプスプスゥゥゥゥッ!」
「あいよっ! それっ!」
プスぅっ!
コロン、コロ、コロンッ!
三つの魔核がその場に落ちて、音成さん家のペスがくたぁっと地に伏せるのが同時であった。
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拙作をお読みいただきありがとうございました!
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