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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
92.アヴォイダンス

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  回避の舞い=アヴォイダンス……

 コユキが蝋燭ろうそくしずくと襲い来るピンポン球を避ける為に、脚気かっけで動かない足の代わりに編み出した、高速移動手段である。 

 全身の贅肉を僅かわずかに、しかし勢い良く一方向へ動かす事で、体ごとその方向へ一メートル前後移動する事が可能であった。

 昨日見せたエルボーやタックル、鯛男タイオを吹っ飛ばした掌打しょうだもこれの応用であった。

 しかし、この移動方法には欠点があったのだ、それは移動が終わる瞬間、次の方向に贅肉を動かす直前の一瞬は、一切の移動が不可能になるのだ。

 あくまでも、この高速移動を目で追え、更に瞬時にタイミングを合わせられる相手がいた場合の欠点であったが……

 ここにいる化け物は数少ない、それを可能にする存在であったのだ! 

 化け物が振りかぶった右手を、凄まじい速度でコユキへと振り下ろし捉えた、と見えた瞬間、

加速アクセル

 コユキの姿はその場から忽然こつぜんと消え去り、化け物の爪は空を切るのであった。 

 加速=アクセル……

 これは、アヴォイダンスの回避速度と移動距離を数倍に引き上げた、所謂いわゆる、上位互換スキルと言うヤツだ。

 コユキの中でも最も贅肉の質量、密度、範囲の集中した立派なお腹、難しく言うと『腹部のお肉』を左右の手でしっかりと包み、勢い良く振る事で指向性を持たせ、無理やり移動させる技である。

 これは前述のアヴォイダンスの唯一の欠点を、力尽くで無効化できる優れもののスキルである。

 アヴォイダンスの直線的な動きの途中でも、このアクセルで強引に方向を変更できるのだから、そう言った意味でも秀逸な技だと言えるだろう。

 そんなに優れたスキルなら最初からそれ使っときゃいんじゃね?

 そう思うだろう、だが上位互換スキルと言うのは、強烈に成れば成るほど、その発動条件や持続条件が厳しさを増して行くものなのだ。

 例えば、善悪の『エクス・プライム』は攻撃された際のダメージを一分程度、六十分の一に抑えるもので、使用後は結構疲れる。

 対して上位互換スキルの『エクス・ダブル』は、なんとダメージを三千六百分の一まで抑える事が可能だが、その持続時間は一秒以下、しかも使った後は気を失ってしまうというオマケ付きなのだ。 

 この事からも、上位互換のスキルと言うものが如何いか諸刃の剣もろはのつるぎであるか、お判り頂けた事だろう。

 ちなみにコユキが『アクセル』を使いすぎた場合、どんなデメリットが彼女を襲うのかははっきり分かってはいない。

 腹部を力尽くで動かす事から、横っ腹が痛くなっちゃったり、気持ちが悪くなったり、慢性の便秘が解消したりするのでは無いかと想像は出来たが、コユキと善悪にはそれを確認する勇気も時間も足りなかったのだ。

 故に安全度優先で、基本『アヴォイダンス』でいこうね、うん善悪も『エクス・プライム』ね、と二人で決めていたのであった…… とにかく。

 一瞬の後、化け物の真後ろに、少し距離を保ちつつ姿を現したコユキはおもむろに声を掛けた。

「あんたがモラクス、ね? 『馬鹿』になってるらしいけど、あたしの言葉が分かるかしら?」

 言いながら、コユキは抜け目無くモラクスの様子を観察して行く。 

 漆黒の肌に端整な顔立ち、凶悪な二本の角は鬼の様、更に血管の浮き出た筋肉質の体は……

 まるでナニである。

 ナニのようなナニ。

 ナニがナニでナニである。

 血管の浮き出たナニがナニのようなナニだ。

 コユキがネットサーフィンで見かける黒人のソレのようなナニは……

 いや、これ以上はやめておこう。

 対面するコユキはブルブルッと頭を振って気持ちを切り替えた。

――――オルクス君の山羊はある程度話が出来た、さてコイツは果たして……

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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