【連載小説】私、悪役令嬢でしたの? 侯爵令嬢、冒険者になる ~何故か婚約破棄されてしまった令嬢は冒険者への道を選んだようです、目指すは世界最強!魔王討伐! スキルは回復と支援しかないけれど……~
134. バルコニーのアメリア ⑦
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エマがデニーに言い聞かせるように言った。
「んもう、デニー! 世界人類全てを消滅させる必要なんて無いのですわ! ここはエマにお任せでしてよ! 私のバルーンボムで王都とその周りだけ灰燼と化せば済む事では無くって? ほら、この様に」
エマの周囲に浮かび上がる色とりどりの魔力爆弾は二年の修行のお陰で優に万を数えた。
庭中を明るく照らし出した魔力の球は、その破壊力を現すように濃密な光を明滅させている。
光を全身に受け、にっこりと無邪気な笑顔で周囲を見回すエマの姿は、見る人が見れば、いいや誰の目にも明らかな狂人に映った事だろう。
だがしかし、無論アメリアは狂ってなどいない。
王立学園主席の優れた頭脳をフルに動かして、カチャカチャカチャカチャと例の計算をこの瞬間にもしていたのである。
多分に洗脳の影響を残した状態ではあったが……
彼女は言った。
「ゼンジンルイノカズハ、スイテイオクヲコエマス、タイシテ、オウトシュウヘンノ、ニンズウハ、ワズカ、ジュウスウマン、ニスギマセン、ケツロン、タスウノシアワセハ、ショウスウノコウフクニ、ユウセンサレマス、オウトヲ、ホロボスベキデス、ガガガッ、ガガッ! デニー? 何ですって? 」
デニーが答えた。
「王都を滅ぼすべきだってさ! 」
「なるほど」
万を超えるバルーンボムが怪しく蠢き、今正に破壊の限りを尽くす、その直前、バーミリオン家の中庭に大きく愉快そうな声が響くのであった。
「ははは、バース! その方たちも! 負けじゃ負けっ! 其方らの完敗じゃ! アメリアちゃんも家のダニエルも最早、卿らの言いなりに動くことは無いようじゃわい! はははは」
「へ、陛下」
現王、国王はバーミリオン家の当主、パトリックの肩に乗ってこの場に現れたのであった。
パトリックも豪快な声で言った。
「ガハハハ! 儂も主らも最早時代遅れの愚物という事じゃ! 考えてもみい? 四方に王国を脅かす敵は無く、我が王国にあだ為す物など皆無であろうがぁ! なあ? バース! 味方同士で猜疑心による諍い等、国力を削ぐこと以外なかろうが? 見た通り、我らが次世代の王は世界最強の力を有して居る! 我が愛娘、アメリアもそれに準ずる力を持った上で、民と王国を守りたいと願っているであろう? これからはそういう時代なのでは無いかのぉ? 我らがブレイブニア王国は、その名の通り! 勇気をもって新たな国の形づくり、そこに挑んでみる! そう言う事なのではないかのう? どうだ、バース、いいや、わが友、イグニスよ? 」
この言葉にバース公爵、いいや、共に現王の学友としてパトリックと同様に、幼き日々を王宮で過ごして来たイグニス・バースは表情から緊張を除外して呟くのであった。
「パッキー…… 全く! お前はいつもいつも、正しいタイミングで正しい事しか言わないのだな…… 気が付いていたか? 私はお前の事が大嫌いなのだぞ…… でも、まあ、お前の言が、正しいのだろうな…… ムカつくぞ、パッキー! しかし、今回の事は礼を言おう、ありがとう……」
「ガハハハハッ! ガハハァー! 」
「はーははははっ! さて、我が息子、そしてその妻エマ、アメリアよ! その魔力を収めて、そろそろ余の話を聞いてくれるかな? 」
パトリックの肩に乗った現王が、頭に金色の塊と化した元王冠をバランス良く載せながら言ったのである。
デニーが答えた。
「はい、お父様! 錯乱してしまい申し訳ありませんでした…… 思わず、民を敵認定して抹殺する所でございました」
国王はやれやれと言った表情を浮かべて言った。
「気を付けろよ我が子よ、んまあ、実行していたとしても余は敵では無かったのであろうから無事であったのだろうが、なぁ? 」
「えっ? 」
「え! 」
気まずい空気が流れる中で、場の空気を打ち消すようにパトリックが口にした。
「エマ、良くぞ王子の破壊の力を止めた物だ…… その上都市一つを滅ぼすほどの力を手に入れていたとは…… お前は儂の自慢の娘であるぞ! あの魔力の奔流、凄まじかったぞ! あれ程の力を制御して敵だけを倒せるとは…… 感心、感心である! なあ、スコット? 」
スコット侯爵が兄に追随した。
「ですな兄上、エマ、お前の成長は私の喜びだよ、良くあれ程の魔力を制御出来るようになった物だ、敵だけを屠る、素晴らしい力だと思うよ、可愛いエマ」
エマがキョトンとしながら答えた。
「ええっ? お父様、叔父様、それは誤解でしてよ? エマのバルーンボムは敵味方の区別など無いのですわ! 周辺の命を只々無慈悲に奪い続ける爆弾に過ぎないのですわ! そうなのでしてよ? 」
この無邪気な言葉を聞いたバース公爵を始めとした国王派の大臣たちも、国王も、叔父さんのスコット侯爵も、エマパパであるパトリックも、フットマンもコーチマンもメイドも衛士も、騎士達も奇跡の様に声を揃えたのであった、一様に震えながら。
『そ、そうなんだ……』
僅か二か月後、婚約を吹っ飛ばして、エマ、アメリア・バーミリオンと王太子、ダニエル・ルーク・ブレイブニアの婚礼が速やかに執り行われたのである。
予想していた王都民、いいや国民達は歓び、祝福の杯を打ち鳴らしたのであった。
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