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【連載小説】堕肉の果てⅠ 第二十四話 問答の沙門②

★挿絵多めのコメディ・ダ─クロ─ファンタジ─
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 「自分の周りの人の顔を、表情を良く見てみるでござる、ってね。
嬉しそうか、怒っているのか、悲しそうか、心配しているのか、友達でも、家族でも、会社の仲間でも、取引先でも、ご近所さんでも、子供や孫たちでも、ね。
周りは敵ばっかりって思って絶望する前に、味方を探して見回してみようって言うのでござるよ。
そしてもし幸運にも味方を見つける事が出来たのならば、
味方が喜んで笑顔になれるように行動すれば、自分自身も幸せになれるのでは? って話すのでござる。
自分の事だけ見ている内は、誰もこっちを見てくれないのでござるってね。
見て欲しいんだったら、助けて欲しいんだったら、
まず見よう、まず助けよう、鏡の自分に微笑み掛けるより先に、
いつか自分に微笑んでくれる誰かに貴方から微笑んであげようよ、って言うのでござる」

「……」

「それでも、一人ぼっちだと絶望するようなら、もう一度拙者の事を尋ねて欲しい、
拙者だけは味方でいたいと思っているでござるし、
もし事情が許さずこの寺に来る事が難しい時でも、思い出して欲しいと、貴方は一人で生きている訳では無いと言う事を、ってね。
道路にあるアスファルトも、歩道橋や横断歩道も、橋も箸も、
服も靴もパンツもベルトも、赤信号で止まる事も、
雨の日に差す傘も、エアコンもレンジもパソコンもスマホも、
お金もアクセサリ─も漫画もアニメもラノベもフィギュアも、
野球もサッカ─もバスケもバレ─も卓球もラグビ─もアメフトも駅伝も、
コンビニのおにぎりだって、
もっともっと全ての物が、周りにある全部が誰かのお蔭で、
誰かの努力や一所懸命の結果で、
皆に囲まれて、皆と一緒に生きているんだって言うんでござるよ。
もし、そんな知らない人達の事なんて、身近に感じられないって言う人にはこう話すのでござる。
御両親や、御先祖様の願った自分の姿を想像してみるでござると。
そこに答えがあるのでは? ってね。
要はね、周りを変えようとしても難しいんだよ、他人だからね。
でもね、自分が自分を変える事だったら、自分の事を好いてくれて、自分の幸せを願ってくれている存在の為だったら、ほんのちょっとでも頑張れるんじゃ無いかな? って聞いて見るのでござるよ」

 コユキは驚いていた。
あんまり一気に喋るもんだから、殆ど覚えられなかったからではない。
坊主ってお葬式とか法事とか、夏場にバイクで遊びに来る(お盆ね)だけじゃなくて、行列が出来そうな事までやっていたとは、と感心していたのだ。

 でも、長尺で語ってくれたのだから、一応真剣に聞いていたアピ─ルも兼ねて、聞いて見てやるか。そう考えたコユキは神妙な顔つきで善悪に尋ねた。

「でも、そんな風に世の中にあるもの全てに感謝なんて感じられないほど絶望しちゃった人だっているでしょう?
周りの人が全然いない、
それこそ天涯孤独みたいな人だって……そんな人たちは?
お坊さんの事だって、信じられない、
信じたく無いって所まで追い詰められちゃった人だっているんじゃないですかね? 」

そう言うと、善悪はにっこりと笑って答えた。

「うん。だから、そんな人達の為に仏様がいるんだよ。
イエス様やマリア様、コ─ランなんかもそうだね。
もう後が無い誰もいない、なんて言うのは人間の錯覚だと思うけど、
そう思っちゃったんなら仕方が無いでしょ? 
でもね、仏様や神様たちはいつでも、誰の事も等しく見守って祝福してくれるでしょ?
だから、お寺も教会も神社もモスクも等しく開かれているんだよ。
僕ちんの顔なんか見なくてもいいから、
仏様に会いに来てくれればいいんだと思うのでござる。
本当に一人だって思うのなら、神様や仏様と居ればいいんだと思うのでござる。
そうすれば、段々周りの事だって見えてくるかもしれないでしょ?
色即是空、空即是色。滅私の先に我有り。って事かなって考えると、鏡ってどうなんだろうって思うのでござるよ」

 むむむ、坊主全部がって訳じゃないだろう、と言うかたぶん善悪が特殊何だろう。
さらっと異教や異端の事も認めた感じで言っていたし。
まぁ、話しの趣旨は良く分からんが、人は自分の事が良く分かっていないって事だけは言い負かされた気がする。仕方ないか負けておこう、とコユキは思った。
思っていると、善悪が調子に乗って坊主っぽい事を重ねて来た。

「つまり、鏡を見たり、自分で自分らしさとか考えるよりも、
他人が自分をどう見ているか、他人は自分に何を求めているのか、
そんな事を見て、聞いて、
その要求に応えていく方が簡単では無いかって事なんでござるよ。
現状だって、自分ってどうだろ? って想像するよりも他者の評価で、ああ私ってそんな感じなんだなって考えたほうが分かり易いでござろ。
自分を知る事って大変な割りに、大事な事であろ?
特にこれからの悪魔との戦いに於いては……」

「ZZZZZZ……はっ、うん?
ん、あ、そうね、うん! 悪魔のね? なに? 」

 いかんいかん、退屈すぎてうとうとしてしまった、とコユキは気を引き締めなおし善悪に向き直った。

「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず。っでござるよ」

「なるほど、ナポレオン・ボナパルトね」

「……いや、ちがうで……」

「あ、そっか逆か! カ─ル・フォン・クラウゼヴィッツっか!
プロイセンの。ですよね? 」

「は~、普通に孫子でござるよ。ソンブとソンピンの……」

「あ──、そっちのほうですか。
そっかそっか──、ヒッカケ、ですよね? 」

 真面目に語って損した、と善悪は考えたが、まぁコユキだから仕方が無い、っと気持ちを切り替え話しを対悪魔に集中する事にした。

「現状、相手の事、悪魔の情報を集めるのは事実上不可能でござろ?
だから自分の、僕ちんも含めた味方の戦力を知る事しか出来ないのでござるよ」

その言葉を受けて、コユキは頷きつつも何かを考えていた様で、徐に口を開いた。

「その事についてなんですけど、やっぱりアタシも攻撃力って言うか、何か武器とか技とか?
出来れば必殺技みたいなの覚えた方が良く無いですかね? 」

「んん? なんででござる?
こと回避に於いては殆ど完璧でござらぬか? 」

 善悪の疑問にコユキは軽く首を振って答えた。

「今日は、先生が風下で自爆してくれたから運良く回避出来ましたけど、あのままの感じで攻め込まれたらどこまで避け続けられたか……正直分かりませんよ。
特にザトゥヴィロとかベナルリア王国? とかマルガレッタさんでしたっけ?
王女さんの話しの後の先生の猛攻には目を見張りました」

「マルガレッタじゃなくマ─ガレッタね。
ってか何でコユキ殿がベナルリアの事を知っているのでござるか?
ま、まさか……! 」

「あ──、そこはどうでも良いんで気にしないで下さい。
アタシが言いたいのは、あのまま攻撃が続いていたら、こっちが先に疲れてぶっ倒れていたって所なんですよ。
やっぱり攻撃力アップも喫緊の課題なんじゃないんですかぁ? 」

 善悪は驚愕していた。
マ─ガレッタの名前を間違えて置いて、『どうでもいい』だと?
い、いやまあ、そこは良いか、だな、コユキ殿は彼女のことに詳しく無いんだから仕方が無い、彼女の可憐さ愛らしさを知れば、又、評価も変わるであろう。

それよりも、オッチョコチョイのウッカリさんに指摘することの方が先決だ、と善悪は判断して言葉を返した。

「必要ないでござるよ」

「ええっ、何でですか? 先生! 今のアタシの話し聞いてました?
日本語分かってますよね?
はっ、さっきの『ゴッ! 』で言語野に何か!
左側痛いとか無いですか? 」

 言われて善悪は自身の側頭部、左側を触りながら答えた。

「う、うん、確かに左側は多少の疼痛は感じるでござるが、
ま、まぁ大丈夫だと思うでござる。
それよりも大事な事を忘れているのではござらぬか? コユキ殿! 」

「えっ! 先生の左脳の状態より大事な事ですか?
ん~……なんですかね? 」

 分かんなかった様だ、ならば良し! 教えて上げるのでござる! ってな感じで善悪は堂々とコユキに言った。

「も──! 忘れやすいんだから~でござる。
ほれ、そこに差している編み棒、かぎ棒だっけ?
それでサクっといけば悪魔なんか灰と化すのでござろ?
覚えているでござるか? ん? んん? 」

スウェットのポッケからのぞいた白銀にちょっと黄色味を帯びた二本のかぎ棒を取り出しながらコユキが文字通り『はっ! 』としていた。

「……そっか、そうですよね!
対、悪魔だったら、こいつでサクッとチョコっと差してやりゃあ良かったんだっけ……。
そうか、既にアタシTUEEEEEee状態だったんですね……」

 漸く、本当に漸くコユキも自分のチ─ト状態に気が付いたようであった。
良かった、良かった。

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お読みいただきありがとうございました(∩´∀`@)❤

※この作品は『小説家になろう』様にて、全120話 完結済みの作品です(ルビあり)。宜しければこちらからご覧いただけます^^↓

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