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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
14.旅の仲間 (挿絵あり)

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 『幸福寺』

 門柱に達筆な文字で書かれた看板が掲げられている。

 大量の汗を吸い込んだスウェットは重く、強烈な異臭を放っている。
 コユキはその酸っぱい臭いを自身の鼻で感じながら、ズルズルと足を引きずり境内に入っていった。

 参道の両側には、背の高い木々が青々とした葉を茂らせ日陰を作っている。
 コユキは少し冷たく感じる空気を肺いっぱいに吸い込むと、ふぅう~と思い切り息を吐き出した。
 急に外の光が眩しく感じられ、人心地ついた気がした。

「おっ、コユキ殿、お久しぶりですな!」

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 背後から聞き慣れた声がした。
 振り返ると竹箒を持った法衣姿の坊主が立っていた。
 コユキの幼馴染(同級生)で、只一人の友達、ここ幸福寺の住職、善悪《ゼンアク》だ。

 日本では、唯一の友と言った方が良いだろうか。


 もう一人、コユキにはキャシーという友達がいた。
 キャシーとはアメリカのユタ州からやって来た、コユキJC時代の交換留学生である。
 友と呼べる女子がいなかったコユキにとっては唯一分かり合えた友と呼べる肥満女子だ。

 その時代、もちろんコユキは肥満だった。
 そしてキャシーも肥満だった。
 
 体育の時間では、だいたい同じ体格の人が二人一組で準備運動をする。
 キャシーが留学生として来るまでは、コユキの相手はガタイの良い体育教師(男性)であった。
 コユキとバランスのとれそうな女子はいなかったのだ。
 キャシーが来てからは、自然にコユキと組になり、その事が切欠で少しずつ話をするようになった。

 コユキはキャシーに日本の文化(主にアニメ・漫画、特にBL・食べ物)を伝え、キャシーはコユキに趣味の手作りお菓子を振舞った。
 特にチョコチップクッキーは絶品だった。

 再会出来れば是非もう一度、御馳走になりたいものだ。
 寧ろ、再会するのも面倒なので送ってくれないだろうか?


 そして、日本人唯一の友は先程から無駄に爽やかな笑顔を浮かべている。
 善悪の首には白銀の念珠と漆黒の念珠が提げられており、それらがキラキラと日光に反射し彼の顔をより無駄に爽やかに演出している。
 お気に入りなのか、前の住職に無理やり付けさせられたのか……
 白銀の方は幼稚園の頃から首から提げていて、よく保育士から、

「遊具に引っ掛かるから外しなさい」

「家に置いてきなさい」

と怒られていた。

 それでも頑として聞かず、今まで外した所を見たことが無い。
 善悪の話では、白銀の念珠は、アフロ・増田というハーフだか昔の人だかが作ったらしく、

「アフロであるから、かなり自己顕示欲の強い人物であったのだろう……」

との事だった。

 漆黒の念珠は、高校位から提げ始めていたが、半生・ムニュと呼ばれていて、

「最初に作った人が、饅頭か何か作っていて、半生の内に握っちゃったんじゃないかと推察するねっ」

さらに、

「自分の名前を付けないないんて奥ゆかしい方だったのでござる……」

と言う事らしかった。
 コユキには良く分からなかったが、何やら思い入れはあるらしい。

「僕ちんなりに分析しているのである!」

とドヤ顔で言っていた事があった。

 善悪とコユキは幼稚園、小・中・高も同じ学び舎で過ごし、高校のサブカル研究会では善悪が会長、コユキは副会長であった。
 現在でも、毎晩ハイファンタジー系のオンラインRPGで、コユキとパーティーを組んでくれる数少ない仲間でもあった。

 小太りの体を揺らしながら小走りに近づいてくる。
 よりによってこの一番暑い時間帯に表の掃き掃除でもしていたのか、善悪も汗だくだ。
 人懐っこい笑顔を浮かべる顔の黒縁メガネに汗が溜まっている。

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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