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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
59.信賞必罰 ①

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 説教が終わった時、コユキはシュンっとこうべを垂れて、ごめんなさい、もう二度と約束は破りません、今後はもっと真剣にやります、と昨日と同じ様な残念な語彙ごい力を披露していた。

 一方、善悪が説教を切り上げたのは、この口だけの反省を信じた訳では無いし、腹が減ったからと言う理由でもなかった。
 今回の一件で正しく理解したからである。

 コユキが反省したり、心を入れ替えた様に見えたとしても、あっという間に、それこそ喉元過ぎれば所ではない、口にした灼熱の食べ物が舌をグズグズに焼き焦がしている際中に熱さを忘れてしまう位の速さで、再び調子に乗って元通りに戻ってしまう事を。

 いや、もしかしたらそんなわずかなタイムラグすら無く、反省や後悔を口にした事で、勝手に満足して終わった事にしているのでは無いか? とまで善悪は予想していたのだ。
 昨日もそんな事を口にしていた、『はいはい、すみませんでした! これでいいですか? 』、謝ったらもうそれで終わったと思っているに違いない。

 だとすれば、どんなに説教を繰り返しても、本人が心から反省(瞬間だけ)しようが、全く意味を為さない訳だ、そう考えた善悪は作戦を変える事にしたのだ。

 コードネーム、それは…… 『信賞必罰しんしょうひつばつ』である。
 因みちなみに第二候補は『因果応報いんがおうほう』であった。

「先生! これからは本気で生まれ変わったつもりで、それこそ死ぬ気で取り組みますので、お任せ下さいね♪ 」

 余程お腹がペッコペコだったのか、言葉の内容と違い、ニコニコして嬉しそうに言って来た。
 やっぱり、善悪の予想は的を射ていたのだ。
 であれば、と善悪は速やかに作戦を実行に移す事とする。

「すぐに準備するでござる。 座って待っているのでござる」

 そう言うと、素早く昼食の調理を始めたのであった。


 五分後。
 コユキの前には善悪が作った昼食が並べられていた。

 いつも通りにドンブリには山盛りの白米、主菜とスープのみで普段よりは些かいささか質素に見える。
 主菜は、卵一個を焼き上げた目玉焼きで、ハムやベーコンのたぐいは無かったし、スープも見るからに薄味そうな色合いの液体の中に、申し訳程度に野菜の具とソーセージの切れ端部分が入っているのみであった。

「えっ? ……これだけ? 」

 思わず言葉にしてしまったコユキに対して、善悪が冷静な声音で問い掛けた。

「不満でもあるのでござるか」

 その問いにコユキは慌てて首を左右に振りつつ返事をする。

「う、ううん。 不満なんて、と、とんでもない」

 しまった、思わず言葉にしてしまったが、人様の家の台所事情にアレヤコレヤ口を出すなんて人としてやってはイケ無い事だった、
 お米一つ満足に研げない自分に食べさせて貰っているだけでも格段の好意なのだった、いけないいけない、感謝して頂かなければバチがあたる、とコユキは思った。

 そして、気を取り直したように笑顔を浮かべ、いつものように両手をパンっと顔の前で合わせ、

「いただきま…… す? 」

 善悪の前に置かれた料理を目にし、その動きを止めた。
 そこに置かれていたのは、エビを始め季節の素材をカラっと揚げた天ぷらの盛り合わせに、さわらの西京焼き、赤身のマグロと近海物と見られる白身のお刺身、上品な色目の炊き合わせが素材本来の色彩を活かして見る者の目を楽しませていた。

 他にも様々なつけ合わせがたっぷりと詰まった仕出し料理、その横には折りに詰められた江戸前寿司、更にこちらは善悪が用意したのだろう、お椀に入ったお吸い物からは松茸の良い香りを漂わせていた。

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拙作をお読みいただき誠にありがとうございました。

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