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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
60.信賞必罰 ②

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 コユキは固まったまま、善悪に聞く事しか出来なかった。

「あ、あの、せ、先生、そ…… それは? 」

「ん? 」

 一旦首を傾げた善悪であったが、コユキの視線が自分の前に置かれた料理に集中している事に気が付くと説明を始めた。

「ああ、この料理でござるか。 この昼食は、本日お招きに与ったあずかった檀家さんが、法事の後の会食を辞退した某の為に持たせてくれた物でござる。 本来会食に参加する事が礼儀なのでござるが、コユキ殿の面倒を見る為にお断りした失礼な拙者の為に、反って気を使わせてしまったのでござる。 しかし、僕ちんの為に、我輩の為態々わざわざ準備して頂いた物でござる。 感謝して美味しく頂く事にするのでござるよ」

 言え無い、クレとはとてもでは無いが言い出せ無いムードであった。

 あそこに並んだ御馳走たちは、善悪だけに食する権利があるのだと、意地汚いコユキであっても理解出来た。
 労働に対する対価と言うのとは少し違う様な気もしたが、少なくとも檀家さんの心の内ではそう思っているのだろうと分かる。

 働いた事が無いコユキでも、いや、働いている人達からの施しだけで生きてきたコユキだからこそ、この料理には、未だ見ぬ給料や、伝え聞く賞与の如き神聖さを感じるのだった。
 羨ましい気持ちは確かにあったが、今は自分の昼食を味わおう、素直にそう思える位、空腹の加減も限界へと到着していたのだ。

 一つきりの目玉焼きと、うっすらと味の付いたスープを舐める様にして、何杯目かのおかわりをしていたコユキだったが、不意に漏れ聞こえて来た善悪の呟きに度肝を抜かす事になった。

「あ──、まだまだ残っていると言うのに、お腹が一杯になって来たでござる。ふ── 」

 !

 イケる、今なら分けて貰える!
 残り物ならば要求してもいい筈だ、そう思ったコユキが口に出そうと思った瞬間、善悪がそれより早く言葉を続けた。

「だが、これはありがたいお料理でござる。 頑張って完食する事と致そう」

 そう言うと、仕出しの容器ごと持ち上げると、口元に近づけて勢いよく食べ始め、見る見る間に自身のお腹に収めてしまったのだった。

 期待した分だけ衝撃も大きかったのか、がっかりしたコユキは、大事に食べていた目玉焼きとスープを、うっかり普通に食べ終えてしまった。
 気が付いた時にはすっかり胃袋まで到達してしまっていた為、その後は仕方なく、食器に残った塩コショウをなめたり、スープ椀の残り香を嗅いだりして、更に数杯のドンブリ飯を食べ終えたのであった。

 そう、善悪の考えた作戦『信賞必罰』その中身は罰、つまりオカズの内容を変えるという凶悪な物であったのだ。
 良い子にしていればいつも通りの献立を、悪い子には質素で非健康的な献立を、シンプルだがコユキの意地汚さを計算に入れた見事な策略であったのだ。

 お腹は膨れた物のやはり物足りなそうにしているコユキの様子を見て、ここだ、と善悪のメガネがキラリと輝きを放った。
 もうお馴染みのデザートアイスを手にコユキに近付いた善悪は笑顔で声を掛けた。

「デザートでござる。 今日はメニューが変わってしまったでござるが、先程反省した事を真剣に捉え、本気で頑張り続けるなら、これからも一緒のメニューを準備するでござるが、どうするでござるか? 」

 そう言った瞬間、パッと顔を上げたコユキが真剣な表情をして、

「はい! 当然です。 メニューは関係無いですけど、今までの自分が嫌になってしまいましたので、これからは何事にも真剣に、必死の気持ちで頑張ります。 愚痴も言いませんし、嘘など以てもっての外です。 勿論、約束の類は遵守じゅんしゅする事を誓います」

 きっぱりと言い切ったのだった。

「そうでござるか。 聞いたでござるよ? ……まあ、確り頼むのでござる」

 そういいながら善悪がアイスを渡すと、コユキは返事もせずにガツガツ食べ始めるのだった。
 その姿を胡散うさん臭そうに眺め、食べ終えたコユキが昼寝に入るのを見届けた後、午後の回避訓練の準備を始める善悪であった。

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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