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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第一章 悪魔たちの円舞曲(ロンド)
61.太くて大きい熱いやつ ①

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  忙しく動き回って準備を終えた善悪が居間に戻ってくると、丁度欠伸あくびをしながらコユキが伸びをしている所だった。

「起きたでござるか。 早速回避訓練を始めようと思うのでござるが、大丈夫であろ?」

 善悪の問いに、

「あぁー、面倒臭いわね、おっと冗談、冗談。 です。 やる気がこうフツフツとみなぎっていましてね。 寝たふりを続けるのが苦痛だった位ですよ。 なはは!」

と、若干所か完璧に元に戻ったコユキが答えた。

 しかし、善悪は怒るでもなく、只、付いて来る様に伝え、境内に向けて歩き出したのだった。

「これは……」

 境内に出て、そのさまを見回してコユキが唸るように呟いた。

 そこに有ったのは、黒、赤、白、桃などの色鮮やかなロープ、荒縄と呼ぶべきなのだろうか? それらがコユキの頭上三十センチ位の上空に張り巡らされている。

 注意して観察すると、奥行き一メートル、横幅五メートル位の範囲を覆うように、それぞれ三十センチ程の間隔を隔てて交差させているようだ。

 それぞれの交差したポイントには、お寺でお馴染みの百目蝋燭が、こちらも溶かした蝋を使ったのだろう、確りしっかりと固定され林立していた。

 不思議だったのは、お寺でよく使われる物と違い、それらの色は白ではなく、黒、赤、紫、緑、青などのビビットな物ばかりだった事である。

「ね、ねえ。 ぜんあ、先生。 これって、あの、あれよね? エスエ……」

「僕ちんのパパンの物でござる! 正確にはパパンとママンの共有物でござる!」

 ……えー

 聞きたく無い、コユキは心の底からそう思った。

 知り合いのそう言う事柄に触れるなんて事は、出来る限り遠慮したいに決まっている、次に会う時にそういう目で見てしまうじゃないか…… と。

 そう言った意味では、はっきり言い切る前に、喰い気味に被せてくれた事は幸運であったと言えただろう。

 聞かなかった事にして、訓練に入るとしよう。

 そんな風に心中で納得していると、善悪が説明を始めた。

「このロープの下で落ちて来る蝋を避けながら、一メートル先から僕ちんが投げたボールを避けるでござるよ。 蝋が当たっても失敗とはしないでござる。 避け切れなかったボールの数をみて進捗しんちょく具合を計る事にするのでござる。 であるが、この蝋燭はソレ専用の物であるので融点が低くなっているのでござる。 火傷するほどでは無いがそれなりに熱いので注意するのでござるよ」

 人が折角オブラートに包む事にしたのに、ソレ専用とか言っちゃったら台無しだよ……

 コユキは落胆の溜め息を吐くのであった。

 二人で仲良くトーチを持って蝋燭に火を着けた後は、コユキはロープの下に入り、一メートル手前で善悪が投球の準備をしたまま待っていた。

 蝋が滴るしたたるのを待って、同時に投げ始めようと言うのである。

 暫くしばらくすると…… ポタッ…… ポタッ…… ポトポトポトポトポトポト…… 一斉にしずくが降り注ぎ始めると、早速善悪のピンポン球がコユキに迫り始めた。

「寸! 寸! 寸! 寸! 寸! 寸! アチッ! くっ、寸! アツッ! ス! ス! ス! ス! アチッ! アチッ! スッ! スッ! スッ! スッ! スッ! アチチチチッ! ……」

 全球投げ終えて善悪がバスケットを降ろすと、慌ててコユキがロープの下から飛び出して来る。

 頭や顔、スウェットのアチラコチラに蝋が付着していたが、ボールは四個のみ付着しているだけだった。

 初回にしては上出来と言って良いだろう。

 善悪は満足そうな顔で、長い柄の着いた蝋燭消しの金属の帽子部分を、カポカポと蝋燭に被せて手際よく消火をしていった。

 一旦全部消さないと、オチオチ球拾いも出来ないのがこの訓練法の欠点だろう。

 蝋をポロポロと取り終わったコユキも、拾うのを手伝い始めたが顔や手の甲に赤みが見える。

 火傷をするほどでは無い筈だったが、あの様子ではかなり熱かったのだと理解して、善悪の良心がチクリと痛む。

 しかし、己の中に生まれた惻隠そくいんの情を、彼は無理やりに握り潰して心から追い出した。

――――非情になるのだ善悪。 全てはコユキ殿の願いを叶える為でござる。 心を鬼にするのでござる!

 気持ちを切り替えた善悪は、再び蝋燭に火を点し、二度目の訓練の為にピンポン球を投げ始めるのだった。

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拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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