聴く姿勢の良し悪し
会話において、話を聴く手法、いわゆる「傾聴」がフォーカスされるようになっています。
「傾聴」のポイントは三つ。
①自己一致…感じていることと、言葉や態度が一致していること
②共感的理解…相手そのものを理解すること
③受容…あるがままを受け容れること
…多少言葉は違えど、検索すれば上記のような言葉に辿り着くことでしょう。
しかし、本来「傾聴」とはカウンセリングの世界で、カウンセラーがクライアントに対して、どのような姿勢で臨むかを説いたもの。
対等な立場で日常的な会話をするにあたってポイントを押さえただけでは、会話ではなくカウンセリングのようになってしまうでしょう。
おかしな日本語ですが「傾聴」に傾き過ぎても円滑な会話にはなりません。
ということで、今回は「傾聴」以外の会話においてポイントとなる要素について考えてみたいと思います。
最後までお付き合いいただけると幸いです。
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簡単な例題から参りたいと思います。
以下の文章から想像できることには、どんなモノがあるでしょう?
「今日の仕事は、しんどかった(-_-)…。」
さて、どうでしょうか?
あなたにも、仕事でしんどかったエピソードはあると思います。
急なトラブルで仕事が遅くまで終わらなかったり、上司と後輩が口論となり仲裁に入ったり、営業先でクレーム対応をしたり…。
おそらく、楽しかった思い出よりも多いという方もいるかもしれませんね。
例題に戻りますが、あなたが感じる「しんどさ」と、他者が感じる「しんどさ」は、果たして同じ「しんどい」なのでしょうか?
相手の感情を表す言葉は、当然私たちも使う言葉ですから、つい、自分事として考えてしまうことがあります。
「上司と揉めた」というエピソードには、「なぜ揉めたのか?」や「結果どうなったのか?」という言葉がありません。
そこで、私たちは無意識に予測を立てて話を聴くのですが、その予測を前提にして話を聴くのはタブーなのです。
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なぜならば、それ予測はあなたの予測であって事実ではないからです。
このような、相手の話から先に予測を立ててしまい、その予測に沿っては話を聴く行為を「会話を追い越す」といった表現をします。
傾聴では、相手の話した内容のみにフォーカスします。
間違っても、相手の話より先に進んではいけないのです。
先ほどの「今日の仕事はしんどかった」でしたら、よく「5W2H」と言われますが、「しんどかった」に係る情報を相手から訊き出すまでは、予測を立てることは危険です。
予測とは、先入観につながる思考だからです。
大切なのは、相手が示した情報から「見立てる」ことです。
「見立て」とは、事実を抽出する行為であり、これを行うには相手の内なる情報を引き出す必要があります。
「上司って○○さん?」「今日の仕事は何をしていたの?」「しんどかったって、何があったの?」など。
たまに「あー、分かった。あれはしんどかったよね~」といった具合に、一を聞いて十を話す人がいますが、それは相談に乗っているのではなく、相手の話を取り上げているだけです。
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傾聴のゴールは答えを見つけることや、相手に響く言葉を投げかけることではなく、話し手にスッキリしてもらうことです。
「話を聴いてもらえた」と感じてもらうことが肝要です。
聴き手側の「話を聴いてあげた」ではなく、話し手の「話を聴いてもらえた」がなければ、それは傾聴ではありません。
相談には「乗る」と「受ける」がありますが、傾聴は「相談を受ける」ものです。
もっとも、「相談」自体が意見を述べることを前提としているモノなのですが…。
ともあれ、「傾聴=話を聴く」と考えている方がいらっしゃいましたら、私個人としては物足りないと感じています。
突き詰めれば、「傾聴」にはコミュニケーション学や心理学、社会学、人文学、記号学、言語学などのさまざまな学問の側面があり、最終的には「傾聴学」といった一つの学問に近い広範な領域を修める必要があると考えています。
ですから、私も傾聴を簡単に説明する時には「自己一致、共感的理解、受容」を持ち出しますが、決してそれだけで済むものではありませんので、相談や悩み事を受ける立場にある方は、「傾聴学」を一緒に学んでいきましょう。
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ということで、最後までお読みいただきありがとうございました。
今回の投稿は以上です。
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