[すこし詩的なものとして]0032 明け方の曳航

行くあてのない水面を、
水の温もりを感じながら、ゆらりゆらりと進み続ける。
かれこれ、どのくらいの時間が経ったのだろうか。
未だに目的の場所に着くことはない。
頭には、冷たい雪がうっすらと膜を張る。
でも、それがその行く先を遮ることもない。

瞬きをしてみる。
次に映る眼前は、先ほどと何も変わってないように見えた。
しかし、この世界は二度と同じ景色を見せないと、父が言っていた。
どこが違うのか、必死に探してみた。
でも、それがなんなのか、わかりはしなかった。
それでも、世界は変わっているはずだと信じるほかなかった。

空を見上げてみる。
雲は、少しずつ姿を変えている。
差し伸べる手は、いつしか払いのける手に変わった。
払いのける手は、いつしか差し伸べる手に変わるだろうか。
世界は二度と同じ形に止まりはしない。

大きく息をしてみる。
その勢いで、口の中は少し冷たくなった。
温もりをぬぐい去り、爽やかさが残った。
自分は世界の一部なのだと感じた。

引かれ行くこの先。
目に映るものに変化は見られないだろう。
でもどこかが時間とともに変わってゆく。

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船が船を引く光景が僕は好きです。
ゆっくりと、ゆっくりと進む姿は、気持ちを落ち着かせ、どこへ行くかもわからずとも見入ってしまうことがあります。
僕らは、生きて死に、死ぬために生まれる。
人はひとりで生きることを許されず、ひとりで死ぬことを運命づけられています。
何を自分の前に据えるか……僕たちはその限られた時間の中でゆっくりと何かに先導されて、また地平線の向こうへ進まないといけないのです。

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